徳川家康を今の日本へ蘇らせた物語が持つ意味 個性的・多彩な登場人物を使って描かれたこと

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登場人物の多さに対する配慮としてのもう1つの注目点は、各人の個性をわかりやすく際立たせている点にある。

開始時刻が過ぎた。
龍馬はちらりと時計を見て、大きく息を吐いた。
「これもお役目じゃ」
自分に言い聞かせるように呟くと、
「お歴々の方々。閣議をはじめるきに」
一種異様な静けさに包まれたメンバーの無言の圧力から逃れるように、龍馬は蓬髪の頭をかきむしりながら開会を宣言した。大声である。同時に大量のふけが飛び散る。総務大臣に任じられた北条政子が露骨に嫌な顔をした。
(19~20ページより)

例を挙げれば、坂本龍馬はこのように描写されている。露骨に嫌な顔をする北条政子も、龍馬の個性をさらに際立たせている。

「その国民というのはなんじゃ?」
家康の隣にいた小男が声をあげた。
財務大臣である豊臣秀吉である。
真っ黒に日焼けした顔にギョロリとした目とちょび髭、頭髪は薄く、かろうじて小さな髷がのっかっているという塩梅だ。“猿”として有名な秀吉だが、実物を見る限りはネズミといった方がぴったりだ。
「国民とは……この日本に住まう人々のことをいいます」
木村は答えた。
「なんじゃ。民のことか」
秀吉は大笑いをした。
「民なぞは、我らの言うことを聞いておればいいのじゃ。なぜ民などの信が必要なのじゃ。そんなことのためにわしらを呼び出したのか? おみゃーは」
(23〜24ページより)

まるで『怪獣大決戦』?

名古屋に生まれたとされる豊臣秀吉は、人を惹きつける魅力を備えた楽天的な人物として描かれており、「おみゃー」に代表されるような尾張訛りを貫いている点も個性を際立たせる。

『ビジネス小説 もしも徳川家康が総理大臣になったら』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

このようにすべての登場人物の個性を(ときには大袈裟なほどに)強調しているので、意外なくらいにすんなり読み進められるのだ。

ちなみに、強烈なキャラクターが次から次へと登場する展開については、かつてどこかで体験したことがあるような気がした。

記憶をたぐらせた結果、「ああ、あれか」と思い出したのは、ゴジラを筆頭とする個性的な怪獣が一堂に会する『怪獣大決戦』シリーズであった。

冗談でもなんでもなく、登場人物一人ひとりが際立っているからこそ、「こんな人が出てきた」「次はこの人か」といった具合に、読んでいると妙にワクワクさせられるのである。

そういう意味では、本書は怪獣映画と同じような気持ちで接することのできる、究極のエンターテインメント小説だと解釈することもできよう。

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