日本製鉄「高炉の追加休止」でも変わらぬ茨の道 脱炭素の政府目標によって難題は増えるばかり

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しかし、恩恵がずっと続くわけではない。中国の内需拡大が止まったときに、中国の鉄鋼製品が海外、特に東南アジアへ流れ出す。2020年は例外として、これまで日本国内の粗鋼生産量は年間約1億トンで推移してきた。このうち約3分の1が輸出に回ってきた。中国が本格的に輸出に乗り出せば、この3分の1は大きな打撃を受ける。残る3分の2の国内向けも少子高齢化で減りこそすれ、増えることは望めない。

国内の余剰な製造能力を削減することで汎用品を減らし、高付加価値品の比率を増やす。さらに価格交渉力の強化を結びつけることで収益力の回復を急ぐ必要がある。というのも、鉄鋼業にカーボンニュートラル(二酸化炭素排出を実質ゼロ)という嵐も迫ってきたからだ。

果てしなく遠い目標への道のり

鉄鋼業は日本全体の二酸化炭素(CO2)排出量の14%を占める。日鉄の年間約9400万トンという排出量は日本企業で2番目に多い。鉄鉱石を石炭で還元するという生産プロセスで大量のCO2発生が不可避だからだ。日本政府が2050年のカーボンニュートラルを打ち出したことで、本気で削減に取り組む必要がでてきた。

日鉄も2050年のカーボンニュートラルへの挑戦を表明した。ただし、この道のりは果てしなく遠い。

これまでも各種の低炭素化技術の開発を進めてきたが、「ゼロカーボン・スチール」となると石炭ではなく、水素で還元する「100%水素還元」の実用化しか道はない。だが、この技術自体まだ確立されていない。仮に商用化できた場合、現在の高炉では対応できない。つまり高炉の建て替えが必要になってくる。水素還元の技術開発、高炉の建て替えともに巨額投資を要する。

水素還元だからといって鉄鋼製品そのものの品質が高くなるわけではない。さらに低炭素化を後押しするために炭素税導入も議論されており、鉄鋼業への逆風はますます強くなる。避けて通れない難題を解消していくためにも、日鉄が生き残るためにも、まずは国内リストラを完遂しなければならない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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