日本人の知らない経済政策「PGSを増やせ!」 衝撃の事実!途上国の半分しかない日本のPGS
しかし、高所得国では、政府支出における社会保障費の構成比が39%だったのに対し、中・低所得国では22%でした。結果として、社会保障以外の支出の対GDP比率は高所得国では24.4%、中・低所得は20.3%でした。表面的な違いほどの差はありません。
重要なのは「生産的政府支出(PGS)を増やす」政策だ
とはいえ、私自身、生産性向上を促進させるべきだと提言している以上、それを実現するには政府支出増加は必然だと考えています。実は、ここに冒頭で述べた「妥協点」があります。
経済学の世界では、景気が悪化しているときには政府が支出を短期的に増やして、デフレスパイラルに陥るのを防ぐ役割を担うべきという意見は当然で、これに否定的な意見を出す人はいません。
一方、1990年までは、中・長期的には、政府支出そのものが経済成長に悪影響を及ぼすということもコンセンサスになっていました。この結論も、しっかりとした統計分析を基に得られた結果でしたので、総論としては反論する余地がありませんでした。
しかし、1990年にハーバード大学のBarro教授が発表した論文により、議論の流れが一変しました。
その論文では、政府支出が経済成長に貢献しないことを統計的に分解して考察しています。結論として、政府支出を「生産的政府支出(Productive Government Spending:PGS)」と「非生産的政府支出(non-Productive Government Spending」に分けて考えるべきだと分析されています。
「生産的政府支出」とは民間企業の生産性に影響を与え、経済成長に貢献する支出を言います。その中には、インフラ投資や教育が含まれます。「非生産的政府支出」とは、簡単に言えば、社会保障費のような「移転的支出」を指します。
さらに議論を発展させた「The impact of productive and non-productive government expenditure on economic growth」という2018年に発表された論文では、59カ国の1993~2012年までのデータを検証しています。
この論文では、高所得経済の場合「非生産的政府支出」の構成比を1%ポイント下げて「生産的政府支出」を増やすと、経済成長率が0.05%上がる効果があることが確認されています。逆に、「非生産的政府支出」の比率が高くなることは、経済成長にマイナスの影響が出ることも明らかにされています。
また、政府支出の中で「生産的政府支出」を増やすと、生産性・労働生産性ともに上がる効果が確認できるとされています。
日本では、国が負担する社会保障費の政府支出に占める比率が、1973年までは20%以下でした。1993年までは25%以下で推移していましたが、その後、大きく上がって2001年に初めて30%台にのり、2010年には初の40%台となりました。税金と別に企業と個人が納めている社会保障料まで入れると、移転的支出はもっと大きくなります。単純計算では、広義の政府支出の70%が移転的支出になっていると思います。
「非生産的政府支出」の比率が高所得経済の平均である39%を大きく上回る70%まで高まっているので、見た目の政府支出総額以上に、政府支出による経済成長要因が目減りしてしまっているのです。
計算のうえでは、日本の「生産的政府支出」はGDPに対して約10%しかなく、先進国平均の24.4%、途上国の20.3%に比べても大幅に低い水準です。これが日本の経済が成長しない原因の1つでしょう。別の言い方をすると、日本は社会保障費の負担によって、経済成長の可能性が奪われているとも言えるのです。
なぜ「生産的政府支出」が経済成長にとって重要かというと、投資をしたお金がリターンとして返ってくるからです。生産性の向上につながり、法人税も所得税も消費税も増え、財政の赤字が縮小します。また、分母であるGDPも上がるので、財政が健全化していきます。
私は、日本経済はインフレにならないとしても、デフレではないほうがいいと考えています。
しかし、次回説明しますが、私は、政府支出を増やすだけで、デフレ脱却ができるとは思えません。それは日本のデフレ現象は、そこまで単純ではないからです。
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