太古の生物に「死は存在しなかった」驚愕の事実 細胞が自発的に「死ぬ」ようになったワケ

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その後、がんやアルツハイマーといった重篤な病気に、このアポトーシスが重要な関わりをもっているのではないか、という仮説が立てられ、2002年、アメリカの生物学者ロバート・ホロヴィッツらが、体長約1ミリの線虫の細胞死のメカニズムを研究しました。

その結果、「器官発生とプログラム細胞死の遺伝制御に関する発見」でノーベル医学・生理学賞の受賞につながったのです。

研究というのは、いま役に立たなかったり、脚光を浴びなかったりしても、その後、何かに役立つ可能性があるからこそ尊いのです。いま役立つものばかりを求める日本政府の姿勢は……おっと、話がそれましたね。

細胞の自発的な死=アポトーシスを観察すると、細胞が死んでいくとき、自らの生命の素であるDNAをきちんと切断していることがわかりました。とすると、アポトーシスの本質は「DNAを切断して、消去する」ということになります。

アポトーシスの異常によって起こる病

このアポトーシスに異常が起きるとどうなるか。わかりやすい例で言えば、「がん」です。がんは「本来死んでいく細胞が死ななくなり、どんどん増えていく」病気です。このため、治療には、細胞にアポトーシスを思い出させる薬が必要になります。

一方、肝炎やエイズ、アルツハイマーは、アポトーシスが「進みすぎる」ために起こると言えます。つまり、細胞がものすごいスピードで死んでいくため、臓器や脳が機能不全になるということです。このため、こちらはアポトーシスを抑制し、うまく働くように促す薬が必要となります。

このようにアポトーシスは、人間の病気、つまり長生きできるか、はたまた病気で死んでしまうか――に大きく関わることがわかります。それでは、なぜこのシステムが生まれたのでしょうか?

地球上で生命は約38億年前に生まれました。この生命誕生から約18億年間、実は「死」そのものが存在しなかったのです。これはどういうことでしょうか。

その当時いたのは、オスもメスもない、ただ1個の細胞だけでできている「単細胞生物」です。細胞の中には、1組のDNAがあります。単細胞生物は、このDNAを複製、つまりコピーして増えていきます。コピーですから、元のものと変わらず、死ぬこともありません。数を増やすためには、これがもっとも効率の良い方法だったのです。

しかし、約20億年前。地球に初めて巨大な大陸が出現し、地球環境は激しく変化します。海で暮らしていた単細胞生物たちは、栄養分が極度に不足し、絶滅の危機に瀕したのです。そこで単細胞生物はどうしたのか。なんとDNAの複製をやめ、単細胞生物同士で“合体”したのです。

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