「シナリオにない巨大災害」乗り切る防災技術  東日本大震災から10年で進化したテクノロジー

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技術が飛躍的に進化したことで、これから加速すると思われるのが、災害対応の無人化です。災害が発生したとき、自治体の職員たちはその対応に追われ、非常に忙しくなります。また、職員たちも被災者であり、災害発生時は安全な場所に避難しなければなりません。

これについては、東日本大震災の際に悲しい出来事がありました。宮城県南三陸町の職員・遠藤未希さん(当時24歳)は、大きな地震が発生したあと、防災対策庁舎から防災無線で町民に避難を呼びかけ続けた結果、津波の犠牲になったのです。このようなことを二度と起こさないためにも、災害対応にできるだけ人が関わらないようにすることが重要なのです。

AIやロボットを使って災害対応を無人化

先の防災無線の例でいうと、現在AIによる自動音声技術はかなり進んできており、人が行わなくても、AIの音声で住民に避難を呼びかけることが可能になってきています。

たとえば、神戸市ではドローンとAIの自動音声を組み合わせることで、被災現場にドローンが飛び、逃げ遅れた人を見つけると、自動音声で避難誘導するといった実証実験を行っています。そのほかにも、災害現場での活躍を想定した災害用ロボットなどの開発も進んでいます。

AIやロボットは人の仕事を奪うなどと悪く言われることもありますが、災害対応の現場は、煩雑な作業や危険な場所での対応が多いため、そういった部分は逆にAIやロボットにまかせて無人化していくことが、結果として職員たちの安全につながります。

現場対応の省力化・無人化が進めば、それ以外の本当に人手が必要となる場所で、職員の方々が対応することができるようになるのです。

東日本大震災から10年、そこで得られた教訓やAIなどのさまざまな技術の進化で、災害対応のあり方は大きく変化しようとしてきています。次に起こる災害ではこれらのテクノロジーが多くの人々の助けとなることを期待しています。

村上 建治郎 スペクティ代表取締役CEO

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むらかみ けんじろう / Murakami Kenjiro

東京都出身。米・ネバダ大学理学部卒業、早稲田大学大学院修了。ソニー系企業や米・製薬会社、米IT企業に勤務、東日本大震災時は東北各地でボランティア活動に従事。その際に災害現場の情報伝達の困難さを目のあたりにしたのをきっかけに、ユークリッドラボ株式会社(現・株式会社Spectee)を創業、AIを用いた防災・危機管理ソリューションのサービスを提供している

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