もう10年「原発事故責任」まだ決まらぬ根本原因 一審の判断も高裁の判断も分かれるモヤモヤ

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これからも廃炉作業が続く福島第一原子力発電所(写真:代表撮影)
東北地方を中心にとてつもない被害をもたらした東日本大震災から今年3月11日で10年になる。作家・ジャーナリストの青沼陽一郎氏が被災地や被災者の今を明らかにするリポートの第3回は、原発事故の裁判についてお届けする。
前回:今も放射性物質の不安「福島の漁師」厳しい現実
前々回:苦難を越え「福島の被災少年」が掴んだ驚きの夢

立証方針や争点は同じなのに司法判断はバラバラ

東日本大震災とそれによる東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年になる。いまでも「帰還困難区域」という人の住めない場所を残す巨大原子力災害。ところが、事故から10年にもなろうというのに、事故を引き起こした責任がどこにあるのか、いまだに争って、定まらない異様な事態が続いている。

無論、事業主である東京電力の責任は避けては通れない。問題はもうひとつその先にある。すなわち、経営陣と国の責任だ。それも、いまだにいくつもの裁判で争われながら、司法判断が分かれる。

国の責任が問われているのは、いわゆる「原発避難者訴訟」と呼ばれる、事故によって避難した住民が国と東電に賠償を求めている民事訴訟だ。避難先の各地で、いまのところ30件ほど提訴されている。

このうち、千葉県に避難した住民43人が国と東電に損害賠償を求めた控訴審判決が2月19日、東京高裁であった。一審の千葉地裁では、国の責任を否定していた。ところが東京高裁では国と東電の双方に賠償を命じて、国の責任を認めているのだ。

同種の裁判の高裁判決はこれで3件目になる。

2020年9月には仙台高裁が、一審の福島地裁の判決に続いて、国と東電の責任を認めている。ところが、今年1月の東京高裁では、一審の前橋地裁が国と東電の責任を認めていたにもかかわらず、国の責任は認められないと否定している。

2対1で高裁の判断が割れる。一審の判断もバラバラ。東京高裁に限れば、裁判官によって真っ二つに分かれている。しかも、ここで重要なのは、どの裁判も立証方針や争点が、いずれも同じであることだ。

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