女性地方議員襲う「有権者ハラスメント」の壮絶 街頭演説中に「説教」、告白断られて嫌がらせ…

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ツイッターなどで知った街頭演説の予定を頼りに議員を追いかけ、説教する男性もいる。

ある1期目の女性議員は、選挙活動を始めた頃、街頭演説の告知を何度かした際、地方議会とは関係のない、安保や党の戦争に対する考え方について1時間ほど「どう思うんだ」と毎日たくさんの人に詰め寄られたという。駅に立つとわざわざ近寄ってきて「あなたは無知だから教えてあげよう」といった説教を繰り返されたら、街頭演説も嫌になるだろう。

実際、濵田氏がインタビューした7人の女性議員のうち、6人はストーカーなどの被害を恐れて街頭演説の告知をしなくなった。続けているという議員1人は、男性議員あるいはスタッフ同行で街頭演説を行っているという。

議員が嫌がらせを告発しにくい事情

立場の弱さという意味では、議員は公人とされる点も大きい。議員の場合、電話番号、住所などがすべて公開されており、SNSでの情報発信は自宅前での待ち伏せを可能にする。

「女性議員が延々説教されたり、『死ね』『1回やらせろ』といったメッセージや卑猥な画像を大量に送りつけられていても、それを告発しないのにはいくつか理由がありますが、議員に特有なのは公人だからという意識です」と濵田氏は指摘する。公人という立場上、誹謗中傷やハラスメント被害を受けることはしようがない、我慢しろという意識が周囲だけでなく、議員本人の中にあるのだ。

SNSで何をやっても加害者がペナルティをほぼ課せられることがない、という現実もある。濵田氏の研究で主に対象となったツイッターの場合、法的な削除要求をしても、それらが実際に削除対応される可能性は極めて低いと濵田氏はいう。

ツイッター社はホームページ上で自社の透明性に関するレポートを年に2回公開しており、2019年7月から12月に同社に寄せられたコンテンツやアカウント削除の法的削除請求は51カ国で2万7538件に上る。そのうち、日本からのものが1万2496件と最多で、世界全体の45%を占めている。ところが、そのうち、コンテンツが表示制限されたものはわずか2.3%に当たる284件に過ぎず、アカウントが表示制限されたものに至ってはゼロである。

しかも、2014年の総務省の調査によると、アメリカの35.7%、韓国の31.5%、イギリスの31%などに比べ、日本でのツイッターの匿名利用率は75.1%と非常に高い。複数のアカウントを作れることはご存じの通りで、今のところ、日本のツイッターでは悪意のある人間はやりたい放題ができる状況にある。

研究を行った濵田氏は、被害を受けてもそれに対する対処が困難なうえ、SOSを出すこともできないインターネット上の構図によって、女性議員が追いつめられる状況を目の当たりにしたという。そんな思いをするのに、なぜ発信を続けるのだろうか。

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