難関資格「MBA」合格しても成功しない人の盲点 学ぶことが嫌になり「燃え尽きてしまう人」も

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同じように2年間を過ごし、同じことを学びながら、どうしてこうした違いが生じるのでしょうか。分岐点は、MBAに入学する時点での能力と意欲です。

能力が高く、「MBAで学んで、人生を変えよう」と高い意欲を持って入学する人は、MBAでさらにパワーアップし、「飛躍するタイプ」になります。藤さんのように、自ら希望して自費で参加するのが、このタイプです。

能力が低く、「何となく興味がある」「MBAを取れば箔が付きそう」などと意欲が低い人は、MBAの授業についていけず、「燃え尽きタイプ」になってしまいます。「能力が低い人がMBAに入れるの?」と思うかもしれませんが、現在、多くのビジネススクールが学生の確保に苦しんでおり、一部のトップ校を除いてさほど入学が難しいわけではありません。

能力は高いものの、意欲が低い人は、「変化なしタイプ」になります。大手企業の社員で、勤務先にMBA派遣制度があり、「せっかくだから」「上司に勧められて」と制度を利用して入学するのが、このタイプです。

「学びに目覚めるタイプ」になるのは、能力は普通以上で、知的好奇心が強い人です。もちろん、以上の分類には例外もたくさんあります。

本当に「MBAを取る価値」はあるのか?

ここで「入学時点の能力・意欲で卒業後の人生が決まるなら、MBAを取る価値ってあるの?」という根本的な疑問が湧きます。

たしかに、MBAの2年間は、学業と会社業務の両立に苦しみ、家庭やプライベートを犠牲にします。学習内容も、少し学習能力があるビジネスパーソンなら、ビジネス書を読んで自習できます。数百万円かけて(海外なら1000万円近く)MBAを取る価値があるかと言われると、甚だ疑問です。近年、MBA不要論が強く主張されているのもうなずけます。

しかし、ビジネスリーダー、とくに起業家やプロの経営者を目指す人にとって、MBAには大きな価値があると私は考えます。その価値とは、人脈を構築できることと自己を確立できることです。

どんな人でも自分の能力には限界があり、リーダーとして大きな仕事を成し遂げるには、優秀な他人に協力してもらう必要があります。優秀な人材のネットワークを持ち、必要なときに協力を仰ぐことができると、成功する確率が高まります。MBAにはいろいろな分野から優秀な人材が集まっており、2年間苦楽を共にすることで、質の高い人脈を構築することができます。

また、多彩な人材と討論することで、ビジネスを考える視野が広がります。他者との比較から、自分の特徴、強み・弱みがわかってきます。これも、ビジネスリーダーとして自己を確立するうえで貴重な経験になります。結局MBAの価値は、学ぶ内容ではなく、学ぶ仲間にあるということです。


逆に、自分の専門スキルを生かしてスペシャリストとして活躍したいという人や現在の勤務先の中で出世の階段を上がって行きたいという会社員は、社外の人脈は重要ではないので、MBAに価値はありません。

ビジネスリーダーの不在が問題になっている現在の日本。ビジネスリーダーを目指す社会人がMBAに挑戦し、日本を変える活躍をすることを期待します。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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