トヨタ自動車が10日、今期(2021年3月期)2度目となる業績見通しの上方修正を発表した。自動車販売の増加に加えてお家芸のコスト削減も奏功して営業利益は2兆円の大台を回復する見通し。新型コロナウイルスの影響や世界的な半導体不足により販売や生産に打撃を受ける企業も多い中、同社の力強さが際立つ格好となった。
同社の新たな営業利益額は従来予想を7000億円上回り、ブルームバーグが事前に集計したアナリスト19人の予想平均値1兆5340億円も大きく超えた。コロナ禍により世界規模で経済が停滞する未曾有の事態となった今期の営業利益の前期比減益幅は17%まで縮小する。
ブルームバーグのデータによると、コロナ禍の影響で4-6月期に前年同期比98%減の139億円にまで大きく減少した営業利益は、10-12月期には同51%増の9879億円と5四半期ぶりに増加に転じた。
子会社のダイハツ工業や日野自動車を含めた今期のグループ世界販売台数計画は973万台と、従来の942万台から引き上げた。主力市場の北米の10-12月期の販売台数が前年同期比13%増となる75万3000台となったほか、日本や欧州、オセアニアでも販売を伸ばした。
国内同業のホンダと日産自動車も業績回復が進み、9日に通期の業績見通しを上方修正したが、世界的な半導体不足の影響などで通期の販売計画はそれぞれ10万台と15万台引き下げており、本業の自動車販売が順調なトヨタとは異なる。
トヨタの近健太執行役員は10日のオンライン会見で新車効果が出ているほか、北米では販売台数が増えたため販売奨励金の総額は増えたものの、1台当たりでは低い水準を維持できたと述べた。
業績回復については「当たり前のことを当たり前のこととして一生懸命頑張った成果」と指摘。一例として感染拡大の影響で工場の生産が止まる中でも、現場で原価改善の取り組みを継続したことなどにより、稼働が戻ってきたときには固定費が低い状態で高稼働を続けることができたと述べた。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは、10-12月期業績は「想定を大きく超える強い決算」と評価。コロナ危機の中で進めた改革が実を結んだと分析して、トヨタは「文字通り災い転じて福となす、転んでもただでは起きないを実践」しているとの見方を示した。
コロナ禍で自動車需要は世界的に低迷し、トヨタも昨年4月の世界販売がその前年同月比でほぼ半減するなど大きな打撃を受けた。しかし中国や米国市場での販売回復が牽引し、10月以降のグループ販売は前年を上回る水準が続いており、年間の世界販売台数でもフォルクスワーゲンを抜いて5年ぶりに首位に立った。
一方、トヨタの近氏は、半導体不足について状況は同社も同様とした上で、トヨタとしてはそのために減産を迫られる状況ではないと語った。今後についてはひっ迫した状態が「夏ぐらいまで続くのではないかという声もあるが、私どもが調達部署やサプライヤーと確認するところではそこまでいかないかもしれないと感じている」と述べた。
近氏は、事業継続計画(BCP)の一環として同社が半導体については1カ月から4カ月程度の在庫を保有していたことや、仕入れ先に長いものでは3年先までの確度の高い生産計画を提示していることなどが寄与しているとの考えを示した。
吉田アナリストは電話取材で、トヨタが主要市場で持続的に新車投入できていることを販売回復の要因として挙げ、「普段からちゃんとやっている研究開発、商品開発がこういったときにも花を咲かせてくれる」と語った。
森会長発言
また、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視とも取れる発言については会見に出席しなかった豊田章男社長のメッセージを代弁する形で、トヨタはスポーツを通じて平和で差別のない社会を目指す五輪の精神に共感してスポンサーになったと説明。森会長の発言は自社が「大切にしてきた価値観と異なっており、誠に遺憾」だとした。
トヨタは国際オリンピック委員会(IОC)と東京五輪・パラリンピックを含めて24年までワールドワイドパートナーとしての契約を結んでいる。
(決算の詳細や識者の見解を追加して更新します)
著者:稲島剛史、竹沢紫帆、River Davis
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