元製薬会社MRが造る「金賞受賞ワイン」の本質 北海道仁木町ワイナリー「NIKI Hills」の造り手

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ワイナリーの新設にあたり、著名な醸造コンサルタントを雇うのはフランスやカリフォルニアなどではよくあること。海外では、各国のワイナリーとコンサル契約を結び、世界中を飛び回る「フライングワインメーカー」と呼ばれる醸造コンサルタントが何人もいる。

そうした一人を雇うことで、新しいワイナリーは創業早々に注目を浴びるし品質も保証されるからだ。ニキヒルズもそうなる予定だった。だが、収穫の1週間前に意見の相違からコンサルタントとの契約を解除。醸造現場には醸造未経験の麿さんだけが残された。

醸造にあたる麿直之さん(写真:NIKI Hillsワイナリー提供)

「不思議なもので一人取り残されたら、それまで遠巻きにみていた道内ワイナリーの人たちが次々と手を差し伸べてくれた」と麿さん。自分たちの収穫醸造で忙しいにもかかわらず、泊まり込みで手伝ってくれた人もいて、なんとか初めての収穫を終えることができた。そして、麿さんはワイン造りの魅力にはまった。

コンサルタントがいない今、ワイン造りを続けたいと思ったら経験を積んで技術を身につけなければと、麿さんは南半球のワイナリーで研修することにした。ワイン造りは1年に1回だ。でも季節が逆の南半球に行けばもう1回、人の倍の経験を積める。

日本での春、南半球は収穫時期に当たる。この時期を研修期間とし、2017年春と2018年春はニュージーランド、2019年春はオーストラリアに行った。麿さんより10歳以上は若い世界各国から集まる醸造家の卵たちと切磋琢磨しながら1カ月、長いときは3カ月経験を積み、ワイン造りに集中し、ワイン造りとはなにかと突き詰め醸造家としての思考を深めた。

そしてニキヒルズに戻ると経験してきたさまざまなことを試してみる。海外での醸造経験を経て、販売戦略などビジネス面の興味は薄れ、麿さんはワイン造りに熱中するようになっていった。

研修で経験したことは帰国後に実践

昨年春の研修先は南アフリカのマリヌー。「ブルゴーニュと見分けがつかない」とワイン評論家が口をそろえるシャルドネを造り、醸造責任者がアメリカのワイン専門紙『ワイン・エンスージアスト』から2016年度世界のベスト・ワインメーカーに選ばれているワイナリーだ。

マリヌーではシャルドネの果汁を搾る際、積極的に空気に触れさせ果汁の酸化を促進させる「ハイパーオキシデーション」を取り入れていた。一方、ニキヒルズでは、逆にできるだけ空気と触れさせず亜硫酸塩を使い酸化を極力抑制する手法を取っていた。

そこで昨年は、亜硫酸塩を使わず、マリヌーで体得してきたハイパーオキシデーション方式で自社畑のシャルドネを搾汁し、5樽分の果汁を得た。1樽は野生酵母で、4樽は樽ごとに異なる酵母で発酵させてみた。いずれの酵母を使った発酵も研修先ワイナリーでやっており、特徴を理解している。樽熟成中の今は、それぞれの個性を見極めているところだ。

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