市況底打ちは本物か?東京オフィスの明と暗 「縦のライン」と「横のライン」で優勝劣敗がクッキリ

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「縦のライン」の人気エリアでも、すべての物件が順風満帆というわけではない。東京中央郵便局の跡地に2012年5月竣工した「JPタワー」は、JR東京駅前の好立地であるにもかかわらず、現在も2割程度の空室を抱える。「賃料が4万円台とやや高めの設定のようだ。人気エリアであっても、この値段だと入居企業を募るのが途端に苦しくなる」(都内の仲介業者)。

JPタワーの賃貸を取り仕切る三菱地所は、「銘柄(物件競争力の高さ)と賃料設定にこだわっている」と、戦略的な値段設定だと強調する。ただ、ビルディング企画の須藤浩之営業部長は「リーマンショックを経験したこともあり、顧客企業は賃料に対して非常にシビア。需給がタイトだからといって、簡単には踊らない」と語る。

表面賃料を下げない裏技

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上層階が点灯していない東京駅前のJPタワー。企業が入居していないことは一目瞭然だ(撮影:尾形文繁)

競争力の弱いビルは入居企業を募るため、賃料を引き下げざるをえない。とはいえ、入居中の企業への影響などから、安易に賃料を下げることができないビルもある。そういった物件で横行しているのが、「フリーレント」と呼ばれる手法だ。

フリーレントは一定期間の賃料を無料にする仕組みで、10年ほど前に始まったといわれる。当初は改装など工事期間中の入居企業の負担を軽減するための措置だった。しかし、「最近はキャンペーンなどと称して、企業を誘致する“呼び水”になっている」と、業界関係者は明かす。

その期間もかつては半年程度が一般的だったが、「今は1年から1年半など、実施期間が延びている。2年以上も実施した事例もあった」(前出の関係者)。賃料だけでなく、1坪当たり3500~5000円の共益費も無料にしてしまう「完全フリーレント」を実施するケースもある。

このような手法で見掛け上の賃料や空室率を改善しても、それはやがてデベロッパーの経営を圧迫することになる。体力の弱いデベロッパーが経営危機に陥り、業界全体が混乱する事態に発展することも考えられる。新築の大型ビルが牽引役となり、今年末にかけて東京のオフィス市況は緩やかに回復していくとみられる。だが、中小型ビルの動向については、内実を見極める必要がありそうだ。

「週刊東洋経済」2014年6月28日号<6月23日発売>掲載の「核心リポート05」を転載)

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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