冨山和彦「江副リクルートは、日本の宝だった」 1980年代から「21世紀型の経営」を実現していた

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そんな古臭い社会に正面から挑んだ最初のチャレンジャーが江副さんだったのではないでしょうか。エスタブリッシュメントから見れば、東大卒の身内が自分たちの秩序をひっくり返しに来るわけです。しかもやっていることは理に適っている。体制派からすれば、一番許せない「革命家」ですよ。

もし江副さんが失脚していなかったらリクルートがGAFAになっていたかもしれないし、リクルートではなくても日本からGAFAのような会社が生まれていた可能性がある。江副さんは不動産や金融事業で多額の借金を残しましたが、江副さんが去った後、リクルートはその借金を返してしまった。それができたのは、あの会社がGAFA並みの強烈なキャッシュ・フローを生み出し続けていたからです。

僕は産業再生機構にいたとき、ダイエーの再建に関わり、ダイエーが大株主だったリクルートの財務を調べたことがあるんですが、それはそれは強烈な高収益体質の会社でした。高偏差値集団なのに年中文化祭のような熱狂があり、多様性があってフラットでオープンな組織。設備を持たず紙と鉛筆で驚くほどの収益を上げていて、「これは日本の宝だ」と思いました。

だからダイエー再建の資金を捻出するためにリクルート株を安易にどこか1社に売ることはしませんでした。手間はかかりましたが、商社やファンドや機関投資家に少しずつ買ってもらい、リクルートの独自性を残したのです。IPOのときなどに使うブックビルディング的な手法で価格を決めたのですが、実際、当初の想定よりはるかに高い価格で売れましたから、企業価値に対する世の中の評価軸はすでに変わりつつあったのでしょう。

「20代なら起業は成長の機会、VCのお金は奨学金」

――リクルート事件の後、日本に根付いた「起業家やベンチャーはいかがわしい」という社会通念がようやく薄れてきました。日本経済の屋台骨だった大企業の経営が揺らぎ始めたこともあり、若い人たちが起業を目指すようになりつつあります。起業を目指す人たちに、アドバイスをお願いします。

昔と違って、今はまともなビジネス・プランを持っていけばベンチャー・キャピタル(VC)がお金を出してくれます。起業するにはいい時代になりました。

20代なら起業は成長の機会、VCのお金は奨学金だと思って、思い切りやればいい。うまくいかなくても力がつきます。ただしお金を出してもらっておいて「西麻布でイエー!」はダメですよ。身になるのは、まじめにやったストイックな失敗だけです。日本のベンチャーはそういう部分で少し緩いところがある。シリコンバレーで起業する連中は、なんだかんだ言ってエリートだから、その辺はわきまえています。

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30代の後半を過ぎてから起業する場合は「お勉強」とも言っていられないので、相当考えてから踏み切ったほうがいい。大企業の中でしか通用しない特殊な能力を身につけて「俺ってすごい」と勘違いした相場観のない人が一番危ないです。大企業の看板を背負っているからすごいのか、外してもすごいのか。そこが肝心。起業するつもりなら大企業で管理職をやるより、中小、ベンチャーで経営職を経験したほうがいい。管理職と経営職は全然違うスキルですから。

今いる会社で働き続けるつもりなら、現場のオペレーション・スキルを極めるか、経営を極めるか、2つに1つ。事業売却のときクビにならないのが、この2つです。スキルのない中間管理職が一番危ない。

江副さんがやった経営はファクトとロジックで考えたら当たり前のことなんだけど、それができなくなって30年経ったのが今の日本の大企業。そんな会社に漫然と身を委ねているのは、とても危険なことだと思います。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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