菅義偉政権が2035年までに全ての新車販売を電気自動車(EV)やハイブリッド車などの電動車に転換する方針を掲げたことを受けて、価格の手ごろさを武器に日本独自の規格として普及してきた軽自動車が価格上昇の危機に瀕している。
国内新車販売の3割以上を「軽」が占める
全国軽自動車協会連合会の堀井仁会長(ダイハツ東京販売会長)はブルームバーグのインタビューで、「軽自動車の命は安価で使い勝手がいいこと」だとし、電動化に伴って価格が上昇すればその魅力が低下してしまう懸念があるとの考えを示した。
その上で、軽は公共交通機関の限られる地方では「生活必需品、ある意味でライフライン」だとし、価格の安さなどの特徴を維持する必要性を訴えた。
安価なことに加え、日本の狭い道路での利便性などを背景に軽自動車は国内で3000万台以上保有され、新車販売でも3割以上を占める。しかし、米国でバイデン新大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を表明するなど世界的にも脱炭素に向けた動きは加速しており、軽自動車業界にも変化の波が押し寄せている。
堀井会長は「当然、日本だけがお国の事情があるからというのは通用しない話だ」として、軽も含めて電動化の流れが強まるとの認識を示した。
自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストも、脱ガソリン車目標の「影響を最大限受けることになるであろう軽自動車は早晩電動化の波に飲み込まれていく」と予測する。
国内自動車メーカーで構成する日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は12月の会見で、日本の道路の85%は軽自動車でなければ相互通行できないとし、「軽という車は日本の国民車」と発言。電動化に向かう中でも軽自動車の存在を忘れてはいけない、と釘を刺した。
電動化の流れを受け、軽自動車メーカーも動き出している。日本経済新聞によると、ダイハツ工業は21年中に親会社トヨタ自動車と開発したハイブリッドシステムを小型の多目的スポーツ車(SUV)「ロッキー」に搭載し発売する。その後軽自動車にも広げる方針だという。