民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実 ポール・コリアー著/甘糟智子訳 ~よりよい国民国家形成なき貧困脱出は可能か
タイトルは誤解を与えかねないが、民主主義が機能する前提条件がない国で、選挙をしたからといって、それが国民にとって利益になるかは疑問だというのが本書の主張である。
そもそも、対立候補を締め出し、脅迫や買収で票を得たのでは、民主主義の下で選挙をしたことにはならない。本書は、正しい選挙をしたとしても、ポピュリズムや近視眼によって合理的な政策がなされないがゆえに経済が停滞することを論じているのではない。アフリカの状況は、そんなことを心配するよりもっと悪いということかもしれない。
選挙で51%の票を得たことによって、国民の残りの49%を犠牲にすることを含め、何をしてもよいというのでは、そもそも民主主義は成り立たない。しかし、考えてみると、先進国の政府はなぜそんなことをしないのだろうか。
今日の先進国は、民主主義の選挙をする前に、内部的な戦争を繰り返しながらも国民国家になっていった。ところが、アフリカの国々は、民族や文化の違いに引き裂かれており、人々は国家よりも自分自身の出身民族にアイデンティティを感じている。そのような国で、指導者が51%の支持を得て独裁政権を作ろうとしたら、国家は分裂し、内乱と隣国の干渉を招くことになる。
本書は、経済学を用いて、アフリカ諸国が貧困から抜け出すために何をしたらよいかを分析している。行われているのは、権力についての分析である。多くの国々の膨大なデータを集め、権力がどのように動くのかを客観的、計量的に分析する。
透徹した分析力に感動すら覚えるが、まず、国民国家を作った日本の先達の偉大さをも改めて感じる。明治の日本は、藩よりも身分よりも国家を上に置き、そのうえで順次、民主主義を拡大していった。