■ミルミルが狙う腸は誰の腸?
そこで、世界初のビフィズス菌飲料「ミルミル」の知名度が効いてくる。販売終了5年経っても、依然高い支持があったとヤクルトのニュースリリースは伝えている。「ヤクルト」は「シロタ株」。「ミルミル」は「ビフィズス菌」。どちらも必須だという。なかでも、ビフィズス菌は、生後間もない乳児期に大腸内のほとんどを占めるまでに一気に増え、有害菌等から赤ちゃんの体を守ってくれますが、その後、加齢やストレス、食生活の変化により大きく減少してしまいます(同社ニュースリリース)という。
実はここがリニューアルに際しての、一つ目の「引き算」だ。旧ミルミルは「家族みんなで飲む」という訴求をしていたが、何故かメインは子どもに置かれていたような訴求をしている。1980年のCMを見ると、明らかに表現が幼児向けだ。その後、1980年代はタレントの故・清水由貴子が肝っ玉母さんを演じるシリーズCMのなかで、家族が各種ヤクルト製品を飲む姿が描かれているが、ミルミルは大人も子どもも飲んでいる。
少子化で子どもは減る。競合も大人向けの製品を続々投入している。そうしたマクロ環境、競合環境に応じて、「ミルミル再投入」において、バッサリと子どもをターゲットから削って「大人のための」というポジショニングを明確化したのだ。
ターゲットとポジショニングが絞れると、製品特性も明確化できる。成分表示を見ると、ビフィーネMに投入されていた「DHA含有魚油」「リン酸Ca」「ラクトフェリン」などが姿を消している。すっかりポピュラーになって、他の商品でも摂れるDHAなどはあえて「引き算」して、ビフィズス菌に特化しているのだ。砂糖も引き算だ。甘味料のパラチノースを使用している。大人が気になるカロリー対策だろう。
ターゲティング絞りきるのが怖くてつい、幅広にしてどっちつかずになる。製品にもあれこれと投入してしまう。しかし、そんなエッジの立っていない戦い方で生き残れるほど昨今の環境は甘くはない。ヤクルトはミルミルブランドの復活を「大人の腸」に賭け、日経新聞に広告を出したのである。その「引き算」の戦略には学ぶべき所があるだろう。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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