アルストム争奪戦で敗北、どうする三菱重工 ライバルGEが買収でさらに巨大化
フランスの重工大手、アルストムの火力発電設備などエネルギーインフラ部門をめぐる争奪戦は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)に軍配が上がった。独シーメンスと三菱重工業が共闘してGEに対抗したが、もともと金銭的条件で勝っていたGEがフランス政府の意向をくんだ大幅な修正案を提示したことが決め手となった。
海外企業による買収を認可する権限を持つフランス政府は6月20日、GE案を支持すると表明。記者会見を開いたモントブール経済・生産再建相は、「シーメンス・三菱重工による提案は非常に真剣なものだったが、政府は(GE案を支持する)決断を下した」と語った。シーメンスが事業を買収した場合、欧州の火力発電設備市場で同社のシェアが極端に高くなり、欧州委員会が定める独占禁止規定に抵触する恐れがあったという。
フランス政府のGE支持表明を受け、三菱重工は「このような結果になったことを残念に思う」、シーメンスも「国益を守ることが国家の仕事であることは理解している」とのコメントを発表。両社ともフランス政府の判断を尊重し、さらなる追加条件提示は見送った。
アルストムの経営陣は翌21日、臨時取締役会を開き、GEの提案受け入れを正式に決めた。これにより、2カ月近くに渡って繰り広げられた“アルストム争奪戦”は事実上決着。GEによる買収・提携は2015年中に手続きが完了する予定だ。
三菱重工の危機感
アルストムは火力発電設備を中心とするエネルギーインフラと鉄道車両・システムの世界大手だが、欧州経済危機などの影響でエネルギー部門の受注が減少し、資金繰りが急速に悪化。窮地に陥ったアルストムに対して、GEが4月下旬にエネルギー部門の買収を正式に提案。GEの欧州本格進出を阻止すべく、独シーメンスも即座に買収へ名乗りを上げ、米欧2強による争奪戦が勃発した。
これに青ざめたのが、日本の三菱重工だった。ガスタービンを始めとする火力発電設備は同社の屋台骨を担う中核事業だ。世界2強のGE、シーメンスに追いつくため、日立製作所と事業を統合。今年2月にその新会社(三菱日立パワーシステムズ)が立ち上がった矢先だ。
アルストムの事業が買収されれば、ライバルの背中は再び遠のいてしまう。かといって、単独で買収に参戦したところで、勝ち目は到底なかった。なにしろ、GEが提示した買収金額は現金で123.5億ユーロ(約1.7兆円)にも上る。
事態を見守るしかなかった三菱重工に声をかけたのがシーメンスだった。シーメンスは車両などの鉄道部門を譲渡する代わりにエネルギー部門を取得する案をアルストム側に提示していたが、アルストム経営陣は巨額の現金が入るGE案に前向きだった。
相手は民間企業として世界有数の資金力を誇る米GE。さすがのシーメンスでも金銭的な条件競争で勝つのは難しい。しかも、すでに欧州の火力発電設備市場で圧倒的なシェアを誇るシーメンスのアルストム買収は、独禁法の問題が指摘されていた。そこで単独買収の戦略を見直し、三菱重工との共同買収をもくろんだ。
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