米GE vs.独シーメンス、アルストム売却の行方 エネルギー部門切り離しを目指すが、長期化も

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GEは、買収後のアルストムの雇用増にも言及している(写真<ロイター/アフロ>は、フランス・ベルフォールに隣接して立つ両社の施設)

フランスの重電大手、アルストムのエネルギー部門をめぐり、異例の争奪戦が勃発した。

4月末、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は現金123.5億ユーロ(約1.7兆円)での買収を提案。一方の独シーメンスはエネルギー部門を買収する代わりに鉄道部門の一部を譲り渡す事業交換を提案。ここにアルストム経営陣からの事前説明がなかったことなどを不服に思うフランス政府首脳が介入し、混乱が深まっているのだ。

アルストムは1928年に2社合併で生まれた老舗。火力発電、再生可能エネルギー、送電などのエネルギー部門と、フランスが世界に誇る高速鉄道「TGV」の車両生産などを行う鉄道部門が2本柱になっている。2014年3月期売上高203億ユーロの7割を占めるエネルギー部門は規模面でGEやシーメンスに見劣りし、苦戦が続く。

ただ、GEと重複する事業は比較的少ない。水力発電や洋上風力発電の分野では強みを有するだけに、補完効果も見込める。しかも、売却で得た資金を鉄道部門の強化に充てられる。アルストムのパトリック・クロンCEO(最高経営責任者)は「交渉してきたのは私自身であり、非常にいい案だと思う」とGEとの交渉に前向きだ。

一方のシーメンスは、エネルギー部門を買収する代わりに、シーメンスの鉄道部門の主要部分をアルストムへ譲渡する案を示した。アルストムのエネルギー部門の時価を100億~110億ユーロと見積もっているという。クロンCEOは「シーメンス側の関心についても取締役会が確認しているところだ」と交渉の余地を残すものの、GE案を優先する姿勢だ。

シーメンスのエネルギー事業とは重複する領域が多いうえに、鉄道部門を譲り受けたところでメリットはさほど大きくないとみられるからだ。シーメンスも高速鉄道「ICE」の車両生産を行うが、「ICEに導入されている技術は衰退したものだ」(仏ル・フィガロ紙)。

政府はシーメンス支持

GE案へ傾くアルストムに「待った」をかけたのがフランス政府だ。

アルストムは03年に破綻の危機に瀕し、救済に政府が関与した過去がある。仏国内の従業員約1万8000人のうち、ほぼ半数がエネルギー部門で働く。政府は雇用維持を念頭に、性急に結論を出さないよう同社を牽制している。

急先鋒が、社会党左派に属し国民に人気の高いアルノー・モントブール経済・生産再建相。「鉄道とエネルギーの両分野で、将来が保証された仏独企業連合が誕生する」とシーメンス案支持の姿勢だ。「フランス人には米国式経営への警戒感が根強く、モントブール氏もそうしたムードを察知して動いた面がある」とAFP通信社のカリン・西村・プーペ記者は分析する。

フランスの調査機関、BVAによれば、55%の国民がアルストムの一時国有化を求めている。しかし、財政再建途上の政府に抱え込む余力は乏しい。クロンCEOは5月末までにGE案を精査すると表明しているが、決着までには時間がかかりそうだ。

週刊東洋経済2014年5月17日号〈12日発売〉「核心リポート04」)

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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