「感染症危機管理」が国の安保を左右する理由 今や感染症は軍事紛争並みの脅威になっている

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日本ではまだその意識が薄いが、感染症危機管理とは、国家安全保障と危機管理が交錯し、外交と内政が連関する政策領域なのである。

国家安全保障とは、「国家の生存と繁栄を揺るがす脅威が及ばない状態」を創出する不断の営みのことである。他国との軍事衝突を防ぐための外交・防衛政策などはその代表例だ。

危機管理とは、そうした脅威が実際に及ぶ事態が発生した際に、それによる負の衝撃を可能な限り低減することを目的として行う一連の活動のことを指す。震災や豪雨災害、連続爆破テロに対する危機管理オペレーションなどがその代表例だ。

国家安全保障が対象とする脅威は増えている

一般に、物事のリスクの大小は、脅威が発生する「蓋然性」(確率)と、脅威が発生した際の「衝撃」の掛け算で表されるが、安全保障はその「蓋然性」を下げる取組みであり、危機管理はその「衝撃」を下げる取組みであるとも言える。

近年、国家安全保障が対象とする脅威の射程が拡大している。社会の政治的・経済的・技術的な発展とグローバル化により、従来からある国家間の軍事紛争といったものから、非国家主体によるテロリズムや国際組織犯罪、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間の紛争、宇宙空間での争い、気候変動といった新たな脅威まで射程に含まなければ、もはや国の安全を確保できない時代になった。

特に昨今は、米中貿易戦争に象徴されるように、国家が地政学的な目的のために従来の軍事的手段ではなく経済を武器として使う状態がより顕著になり、経済安全保障が伝統的な国家安全保障と同様に重要となる地経学の時代に入ったとも言われている。日本政府も新型コロナ危機真っただ中の2020年4月、国家安全保障局の中に経済安全保障を担当する経済班を設置している。

こうした中、新型コロナは、感染症危機が国家安全保障上の重大な脅威であることを各国に改めて認識させた。欧米各国は「コロナ戦争(War on COVID-19)」と形容して危機感を表し、日本政府も防衛白書(令和2年版)で「世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス感染症は、わが国を含む国際社会の安全保障上の重大な脅威となりました」と述べている。

感染症危機は、原因病原体の病原性と感染性によっては、多数の国民が死に至り、一国の社会構造そのものが変質し、国家の生存を危うくするという大きなリスクをはらんでいる。今回の新型コロナ危機を通じて世界が経験した通り、感染症危機が、人間の社会活動を停止させることによって経済的打撃を与え、国家の繁栄にも甚大な影響を及ぼすのは言わずもがなである。

次ページ日本に危機を及ぼす感染症の発生頻度は増えている
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