1日5万人感染「イギリス」はどうなっているのか ワクチン接種は始まったが、閉塞感が依然強い

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貯水池エリアに入ると、警察のトラックと数人の警察官が集まっている姿が見えた。アレンさんは「殺人事件でもあったのかな」と思いながら眺めていたが、警察官らがやってきて車を取り囲んだ。車から出てみると、「ロックダウン違反だ」と説明され、アレンさんもムーアさんも各3万円の罰金が科されてしまった。2人は各自コーヒーを持ってきていたが、警察に「ピクニックをしようと思っていたことを示す」と言われた。

アレンさんの両親は新型コロナ感染症にかかっているし、兄は医師。ロックダウンの規則破りをするつもりは毛頭なかったが、突然罰金を科されたことで大きな衝撃を受けた。

ロックダウン下では「近場での運動」が許されているが、「近場」の定義はない。アレンさんの自宅から貯水池までは8キロほど。また、他者と社交目的で会うのは禁止だが、戸外の運動時に異なる家族から1人ずつであればともに歩いたり走ったりしてもいいことになっている。

コーヒーを「ピクニックの意思を示す」と見なし、即罰金を科すとはあまりにも厳しすぎるとソーシャルメディア上で話題となり、主要メディアもこれを取り上げたことで、地元警察はアレンさんとムーアさんに謝罪。罰金は取り消された。

「近場」はどこまでなのか議論が沸騰

「近場」とはいったいどこまでを指すのかで議論が沸騰する中、10日には今度はジョンソン首相が官邸から11キロ離れた公園でサイクリングをしている様子をメディアが報道した。官邸広報は「首相は規則を逸脱していない」と説明したが、「国民は規則どおりに行動しろと言いながら、自分はそうしていない」と批判を招いた。

イングランド地方以外のほかの地域でも同様のロックダウン規制が課されている。全国的なロックダウンとなったのは昨年3月。その後、規制は次第に解除されたが、感染者数が増えるとミニ・ロックダウン、減少すると規則を緩めるというヨーヨー方式が実践されてきた。

多くの国民にとって、どこまではよくてどこからが悪いのかがつかみにくい。何しろ、首相と言えども「ついつい」拡大解釈してしまうのだから。

昨年12月以降、コロナの変異種ウイルスによる感染が急拡大しており、先行きへの不安感、自由に外に出られないことへの閉塞感が高まっている。映画館、劇場は何カ月も閉鎖のままで、レストランやカフェはテイクアウトのみ。通りを歩くと「営業停止」の張り紙を貼った小売店が並ぶ。気晴らしができるような場所が消えてしまった。

飲食店閉店のお知らせ。ロンドンでは多くの飲食店が閉店している(撮影筆者)

感染の怖さが広がっていることがわかるのは、路上でジョギングをしていると、向こうからやってくる人がかなり距離を取って立ち止まるときだ。

また、マスクをして小売店で買い物中、棚からモノを取るためにほかの買い物客の体に少し近づいてしまうと、さっと身を避けられてしまう。

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