葛飾区が熱望「貨物線旅客化」は現実的なのか 「新金貨物線」交差する国道の立体化がカギに

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新金貨物線は、総武本線の新小岩駅と常磐線の金町駅を結ぶ貨物線だ。正確には総武本線小岩―新小岩―金町間の貨物支線だけれど、小岩―新小岩間は総武本線と並んでいるため、地元の人々は新小岩―金町間を新金線と愛称で呼ぶ。JR東日本が所有する単線電化路線で、運行する列車は主にJR貨物の貨物列車と回送列車。臨時列車を含めて1日当たり最大数往復。定期旅客列車はないけれども「貨物線乗車ツアー」などで経由する列車があり、地元以外の鉄道ファンにも知られる。

新金線は途中で江戸川区をかすめているけれども、ほとんどの区間が葛飾区内にある。葛飾区内の旅客鉄道路線はJR常磐線、JR総武本線、京成本線、京成押上線、京成金町線、北総線があり、南北方向は京成金町線のみで、しかも距離は短く葛飾区の南北を貫いていない。その点、新金貨物線は区の中央を縦断するから、旅客線化の要望が高かった。

要望は半世紀以上前から

その要望は半世紀以上もさかのぼる。1953年7月10日、衆院議員の天野公義氏が第16回国会で質問した。

「常磐線金町駅、総武線新小岩駅間は現在貨物線であるが、この貨物線に客車を入れ、旅客の輸送をしてほしいとの熱烈な要求が地元民間にある。現在は単線であり、貨物多くして客車を運転する余力がないので地元の希望が実現しないが、この単線を複線化して輸送力の増強を計り、もつて客車を運転すべきものであると考える。この貨物線の用地は複線化するに十分な土地の広さをもつている。これに対する政府の見解如何」

これに対して答弁した人物は内閣総理大臣吉田茂であった。「多額の設備費を要するので、目下の国鉄予算事情では、早急実施は困難である」とバッサリ却下している。ちなみにこの時の衆議院議長は西武グループの基礎を築いた堤康次郎だった。

鉄道路線の用途が国会で議論された理由は、当時の国鉄の事業は国会の承認が必要だったからだ。第16回国会ではこのほかに、「国鉄中央線複々線実現」「熊谷・桐生間の鉄道新設」「北千住駅改築」「国鉄中央線国分寺駅混雑緩和」などが審議されている。

1953年といえば朝鮮戦争特需による好景気で、鉄道の通勤需要が爆発的に増加しつつあった。しかし国鉄の整備予算は潤沢ではなかったし、好景気は貨物需要も旺盛で旅客列車の増発も厳しかったようだ。総武本線は都心に直通していたけれども、両国から都心側への延伸は電車のみ走らせる想定だ。貨物列車は運行できない。新金貨物線は常磐線と総武本線を結ぶ貨物列車にとって重要な連絡線だった。

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