JR九州「新型高速船」、国内運航阻む規制のわな 日韓航路に就航できず、活用を模索するが…

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これで解決かと思われたが、意外なところから「待った」がかかった。海運・水産業で働く船員で構成される全日本海員組合がクイーンビートルの国内就航に断固反対の姿勢を示したのだ。

「カボタージュ制度が緩和された場合、フェリー・旅客船産業はコストが優位な外国船籍に駆逐され壊滅的な打撃を受けることはもとより、早晩、内航海運産業にも波及することや、船員の雇用問題にまで発展することが危惧されます」。全日本海員組合は11月25日、国土交通省への申し入れ文書でこのように説明している。

ここでいう「コスト」の多くを占めるのは船員の人件費。日本船籍の船舶は基本的に日本人船員の雇用が義務付けられているが、カボタージュ制度の緩和によって外国船籍の船舶が次々と国内航路に就航するようになれば、こうした外国船籍の船舶が運航コストの削減を狙って日本人の代わりに外国人の船員を大量に乗せる可能性がある。船員にとっては職場を失うことにつながりかねない。

規制緩和すると影響は大きい

カボタージュ制度の緩和の影響は各方面に及ぶ。ダイヤモンド・プリンセスの乗客のコロナ感染でみそを付けたが、コロナ禍の前は大型クルーズ船による船旅が大人気だった。ただ、ダイヤモンド・プリンセスを含む多くの大型クルーズ船は外国船籍。外国船籍のクルーズ船は日本の都市のみに寄港する国内クルーズは実施できないことから、必ず外国の港を経由していた。

クイーンビートルに国内運航を認めると、極端な話、クルーズ船の運航の仕組みが変わる可能性もある。さらにいえば、客船だけでなく国内のコンテナ船輸送も外国船籍にとって代わられる可能性すらある。

問題の解決策として、海運に詳しい専門家は、「クイーンビートルを日本船籍に変更すればいい」と提案する。「船籍変更が難しいというなら、その制度を簡素化すればいい。カボタージュ制度に特例を設けるよりもそのほうが業界への影響は小さい」。

クイーンビートルが将来日韓航路に就航すれば、韓国人客を接客する韓国人クルーが乗船する可能性はあるにせよ、国内ツアーに関しては乗務員全員が日本人。少なくともクイーンビートルが国内運航したことによって外国人に職場を奪われるという心配はない。それでも、今回の特例がきっかけで国内運航の秩序が崩れる可能性をはらんでいるというのは、なんとも皮肉な話だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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