「アフター・コロナ」は意外に明るい時代になる 今から100年前のアメリカが教えてくれる未来

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国民の側でも、速やかに前の時代を忘れたかったのだろう。民主党はウィルソンの後継者として、オハイオ州知事のジェームズ・コックスを擁立した。同時代の作家、アービング・ストーンは1920年選挙を回顧して、「あらゆる面でハーディングよりもコックスのほうが優れていた」と断じたものだが、選挙結果は一般投票で60%対34%という圧倒的な大差で共和党のハーディングの勝利に終わった。

それではアメリカは「平常」(Normalcy)に回帰できたのか? いやいや、とんでもない。1920年代は「狂乱の20年代」(Roaring Twenties)と呼びならわされている。戦争とパンデミックで怖い思いをした人々は、その後の平和な時代に思い切りはじけてしまったのだ。

アフター・コロナ時代は意外と高成長に?

1920年代のアメリカは孤立主義に回帰し、移民の受け入れを制限するなど「内向き」となった。他方、経済政策では自由放任主義、富裕層減税によって未曽有の好景気を迎える。ウォール街(株価)は高値を更新し続け、それは1929年10月24日の「魔の木曜日」まで続くことになる。

当時のアメリカでは冷蔵庫や洗濯機といった電気製品が普及し、ラジオやトーキー(音響付き映画)などの新技術が大衆文化を切り開いた。大量生産方式で作られたT型フォードが爆発的に売れた。自家用車の普及はガソリンスタンドやモーテルの整備をもたらし、インターステートと呼ばれる高速道路網の建設が始まった。

上下水道や発電所などの生活インフラの整備も進んだ。ニューヨークやシカゴで、「摩天楼」と呼ばれる高層ビルディングの建設が競われ始めたのもこの頃からである。それからすでに1世紀が経過したことを考えると、バイデン次期政権が「インフラ投資」を目指すのも、むべなるかなである。

「命からがら」を経験した人たちは、得てしてリスクに対して大胆になれるものだ。日本における戦中派世代が、戦後は企業戦士となって高度成長時代を切り開いたことを想起すればいい。アフター・コロナの世界経済は、意外と高成長時代となるのかもしれない。

1920年代の時代精神を代表する人物として、チャールズ・リンドバーグを挙げよう。1927年に25歳の若さで、初の大西洋単独無着陸横断飛行を成し遂げた。彼が操縦する「スピリッツ・オブ・セントルイス」号の翼は、33時間の孤独な旅の末に「パリの灯」を目撃することになる。冒険の動機は高邁な理想などではなく、2万5000ドルの賞金(現在の価値に換算して2000万円前後とも)と功名心であった。

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