「緊急事態宣言」再発出が効果的でない根本原因 欧米の法制度にあって日本にはないもの

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フランスやドイツの憲法をみても、戦争や紛争のような防衛事態、テロや内乱といった治安事態、地震、台風、感染症のような災害事態をまとめて緊急事態として整理している。

法律とは本来、不特定多数の人や事象に適用されるという意味において、一般性と抽象性を有する必要がある。特定の人や事象を対象にした法律は認められない。

しかし、実際には高度に複雑化した現代社会において、一般的・抽象的な法律だけでは社会の要請に十分に応えることができず、ある程度個別的・具体的な法律をつくることで対応することが必要となる場合がある。こうした場合に制定されるのが、特措法だ。

日本には緊急事態に対応する基本法がない

日本の法制度の問題は、特措法があることではなく、特措法ばかりで、緊急事態対処や感染症対策などについての基本法がないことだ。これは、つねに事案が発生するたびに、対症療法的に法律を制定してその場をしのいできたことの証左である。

例えば、1999年の茨城県東海村臨界事故のあとに原子力災害対策特措法が成立。そして2001年のアフガン戦争をきっかけとしてテロ対策特措法が、2003年のイラク戦争をうけてイラク復興特措法が成立している。

この方法は、特定の事案に即した法律を柔軟に作ることができるという面もあるが、中長期的に見ると、それぞれが別個に存在することで全体像の把握が難しい複雑な法体系となってしまう。

実際、新型コロナウイルスの感染が拡大していた今年3月に、感染症法や検疫法、新型インフルエンザ特措法といった法律を適用することができるのかという議論となり、結果的には法改正をしたうえで、緊急事態宣言を行うこととなった。

この点についてはさまざまな角度からの議論があるが、各法律がそれぞれを相互参照している関係にあり、ツギハギのパッチワークのようになっていてかなりわかりにくく、法律としても抜け落ちている部分があったことは確かである。

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