広島地検の若手検事はなぜ自ら命を絶ったのか 過去2年で4人が自殺、問われる検察組織の実態

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実は検事の自殺は、今回ばかりではない。検察官の数は全国で2000人に満たないが、橋詰氏が調べたところ、2018年~2019年の2年間だけでも4人の検事が自ら命を絶ち、過去10年間にさかのぼればその数はさらに増える。

例えば、2012年4月に大阪地検堺支部、2018年1月には徳島地検、同年10月には福岡地検小倉支部で若い検事が自殺しており、2019年1月には高知地検中村支部で支部長を務める検事が自殺している。橋詰氏によれば、その中には異動希望を無視されたうえ、上司に意見すると、「検察官を辞めてしまえ」という趣旨の発言を受けた検事もいるという。

警察庁の統計によると、近年、勤務上の問題を理由とした自殺は減少傾向にある。2011年に全国で2689人にのぼったその数は、2019年には1949人にまで減っている。パワハラの問題が厳しく問い直され、各企業で労務管理の見直しが進んだ結果とされる。

佐倉氏は、「検察内部で複数の自殺者が出ている中で、それを組織としていかに受け止め、いかに改善しようとするのかを組織内外に示し、実行して検証していく姿勢が問われる」と指摘する。

遺族は公務災害の申し立てへ

亡くなった若手検事の父親が取材に応じ、こう話す。

「息子が職場で使用していたパソコンや遺品の確認は私たちが立ち会うこともなく行われ、息子の同僚に当時の状況について話を聞きたいと申し出ましたが、認められませんでした。検察による調査にあたってLINEのやりとりを提出し、『叱責をする前に決裁した直属の上司を交えて議論すべきだったのではないか』と文書で指摘しましたが、広島高検の総務部長からは『自ら命を絶った原因はよくわからない』との説明を口頭で受けただけでした」

こうした対応に納得できない思いを持つ父親は、近く一般企業の労災にあたる「公務災害」の認定を求めて広島地検に申し立てを行う予定だという。

「上司から必要な指導を受けることは当然あると思いますが、息子は上司にいい加減な態度で臨む人間では決してありません。いったい何があったのか、事実をはっきりさせたい。検察にもしっかりとした対応を取ってもらいたいと考えています」(父親)

今回の件について、亡くなった検事の勤務実態がどうなっていたのか、パワハラはなかったのかなどについて広島地検に取材を申し入れたが、同地検の広報官は質問状の受け取りすら拒否し、「当庁からは一切、お答えいたしかねます」とするのみだった。

一方、法務省刑事局は取材に対して、「個人のプライバシーに関わる事例であり、お答えは差し控えさせていただいております。(労務管理については)各検察庁において、法令等に基づいて適切に行っているものと承知しています」と回答した。

竹中 明洋 ジャーナリスト

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たけなか・あきひろ

1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルグ大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。著書に『殺しの柳川 日韓戦後秘史』など。

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