日本のコロナ重症者対応が抱える決定的な弱点 医療崩壊の責任は民間病院でなく厚労省にある

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このような状況はアメリカだけに限らない。イギリスの主たるコロナ引き受け病院を以下の表に示す。マサチューセッツ総合病院ほどではないにしろ、一部の施設で集中的に患者を受け入れているのがわかる。

このような状況を知れば、日本の医療が欧米の数十分の一の重症患者で崩壊してしまうのもご理解いただけるだろう。やり方が悪いのだ。誰の責任かと言えば厚労省だ。

メディアに登場する有識者の中には、民間病院が協力しないので、政府の権限を強化し、強制的に重症患者を受け入れさせるべきだと主張する人もいるが、それは的外れだ。

日本の医療は診療報酬、病床規制、医学部定員規制などを通じて、厚労省が、がんじがらめにしている。小泉政権以降、診療報酬は据え置かれ、開業医と比べて、政治力が弱い病院、特に民間病院は、コロナ感染が拡大したからと言って、病院経営者が柔軟にコロナ重症病床を拡大させる余裕はない。このあたり、病院経営者の本音が知りたければ、筆者が編集長を務めるメルマガ「MRIC」で配信した「コロナ禍における診療体制維持」(http://medg.jp/mt/?p=10026)をお読み頂きたい。都内民間病院院長(匿名)による切実な現状が紹介されている。

5~10人程度のコロナ重症患者を受け入れて、それに対して高額な診療報酬が支払われても、通常の手術などの件数が激減すれば、病院は倒産してしまうし、さらにコロナ重症患者の治療は手がかかり、多くの医師・看護師を要するが、普通の病院にそのような人的リソースはない。

やるならば国公立か独立行政法人しかない

もし、やるとすれば、多数の医師や看護師を抱え、たとえ赤字が出ても、公費で補填される国公立病院(大学病院を含む)か独立行政法人しかない。この「コロナ禍における診療体制維持」を書いた院長は、コロナ感染症対策専門家分科会の会長を務める尾身茂医師に対して手厳しい。

文中で「多くの民間医療機関は新型コロナの入院診療に対応する事は難しく、中心として働くことは困難と言わざるを得ない。今を憂いているならばぜひとも発信してほしい。自らが属する地域医療機能推進機構(JCHO)所謂第3セクター医療機関や公的医療機関が新型コロナ診療に特化するなど中心的役割を果たす」と述べている。私も同感だ。

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コロナ重症患者を適切に治療するには、中核施設を認定して、集中的に資源を投下するしかない。これは現在の厚労省の施策と正反対だ。いまのやり方を押し通せば、多くの施設が疲弊し、PCR検査を抑制している現状では、院内感染の多発が避けられない。まさに現在の日本の状況だ。

コロナ対策の「正解」は誰にもわからない。世界中が試行錯誤を繰り返している。われわれは海外から学び、合理的な対応を採ることが必要だ。コロナ重症者対策は方向転換しなければならない。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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