台湾で爆発的に広がる、自転車シェアリング 台湾でできて、日本でできない理由

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世界における自転車シェアの先行例で最も有名なのが、すでに2万台以上が稼働しているパリだろう。ロンドンでも1万台が動いていると言われる。また、ニューヨークでは昨年からスポンサーであるシティバンクの名前を冠した「シティバイク」が導入され、台北と同じ5000台が動いている。利用方法は台北とは微妙に違うが、これからの都市交通のなかで、自転車の役割を高めていくという長期的な展望で行われていることは共通している。

東京には「本気度」が足りない

日本においては、自転車シェアは失敗の歴史を繰り返してきた。最大の理由は、その実施規模が中途半端だったことだ。

日本シェアバイク協会の小林副会長によれば、通常、自転車シェアが成功するには、人口の1%程度の台数が必要だという。その意味では、パリがようやくこの水準に達しているが、台北でもまだ足りない。ましてや日本では、香川県の1250台が最高で、ほかには東京江東区や横浜市などが300台という数字にとどまっている。

その最大の理由は区割りでしか動けない行政のあり方だと言われている。人間の行動様式は区単位ではない以上、区がいくら単独でがんばっても、自転車シェアがユーザーのニーズをとらえることはできない。

東京都の舛添新知事は、2020年の東京五輪に向けて東京を「TOKYO自転車シティ」にするというビジョンを打ち出した。今日の東京の交通システムのなかで効率的に大量の観光客を受け入れるには、東京のサイクルシティ化しか解決策はないが、東京の歩みはあまりに遅い。区ごとにしか動かない行政システムの弊害に加え、東京都自身に「本気度」が足りないからだ。

日本が環境型社会に向かうことは国民的コンセンサスだ。自転車は健康にもいいので医療費抑制につながる。もちろん交通渋滞の抑制にもなる。あらゆる意味から考えて、将来の日本にとって意義がある自転車シェアを台北に見習って始める時期が来ている。

シェアバイクは、基本的になかなかビジネスとして割に合わない。事業者に対し、行政が一緒になってサポートを行うことが不可欠だ。台湾のシェアバイクも、30分までの無料部分のコストを台北市が負担することで採算を合わせている。

しかし、それでも街の活性化や大気汚染の改善、街の回遊性の向上、市民の健康増進など、長期的に住民に与えるプラス効果は大きい。そうした観点からも日本のお隣の台湾でのYouBikeの成功は大きな啓示になるはずである。 

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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