同一労働同一賃金、3つの最高裁判決が示すもの 日本の雇用システムにどう切り込んだのか

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――結局、今回の最高裁判決は個別に判断するということが強調されていると。

そうだと思いますね。大阪医科薬科大学事件もメトロコマース事件も高裁判決がひっくり返されましたけど、大阪医科薬科大学事件の場合、原告の女性労働者は3年で辞めているんですね。

最後の1年は病気で休んでいて、実際には2年しか働いていないんです。そうすると、アルバイト従業員で実質2年しか勤続しない人に賞与を払わないというのが不合理かというと、それは少なくともただちにそうは言えないのではないでしょうか。

仮に非正規でも勤続15年で成果を上げているということであれば、違った判断になったと思います。ですから、非正規社員には賞与を支払わなくていいという一般的なルールができたということにはなりません。

ジョブ型が普及すれば問題はなくなる?

――昨年6月の規制改革推進会議の答申の中に「ジョブ型正社員の雇用ルールの明確化の検討」というものがあり、 労契法に規定する労働契約の内容の確認について、職務や勤務地等の限定の内容について書面で確実に確認できるような方策が挙げられています。先生が内閣府からの聞き取りでお話になったことで盛り込まれたそうですが、これが普及すれば今回のような問題はなくなっていくのでしょうか。

方向としては、かなり変わってくると思いますね。

現行の労契法4条では、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」とあります。これを少し変えて、どういう仕事をして、どこで働くのかについて書面で確認しましょうというものです。

ただ、政府の定義ではジョブ型というのは、仕事と勤務地が限定されているものを指しているのですが、これは適切ではありません。私が言っているジョブ型というのは、「どんな仕事をどこでするのか」を使用者と労働者が合意するという合意型の社員なんです。

いろんな仕事をしてもかまわないんですね。ただし、そういう働き方をすることについて合意すればいいということです。限定かどうかではなく、明確な合意のうえで現在の仕事をしているかどうかが重要なわけです。

合意の内容に対して賃金等の処遇がなされれば、使用者の裁量で定着云々という人事制度の運用などが混じって判断が難しくなるということは、かなり減るのではないかと思いますね。

――日本郵便事件では手当をめぐる待遇差が争点になり、不合理と判断されました。この影響なのか、企業では手当を廃止しようという動きがあるようなのですが。

私も企業の人事から、そうした話を聞いています。とくに扶養手当については、働くお父さんと家庭を守るお母さん、そして子ども2人という、昔ながらの世帯が前提でできているんですね。今、家族の形が大きく変わってきています。一人暮らしや共働きの社員が多数派となっていますよね。

最終的には、合理的理由があるものだけを残し、究極的には本給一本という方向になると思います。全面的にすぐになくなることはないでしょうが、見直す機会にはなりましたね。

(文/坪義生)

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