同一労働同一賃金、3つの最高裁判決が示すもの 日本の雇用システムにどう切り込んだのか

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また、労契法旧20条と旧パートタイム労働法8条で不合理性の判断について「その他の事情を考慮して」とのみ記載されていた内容を、パ有法8条では「その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」としています。

この2つが条文を見てすぐにわかる大きな違いですが、それを意識した判決になっていると思いますね。

判決では、各賃金項目の趣旨・目的について強調していますし、それぞれの項目ごとに判断するということを繰り返し言っています。適切かどうかは評価ですから、そういう評価的な観点から見ますよということもはっきりと示しました。

大阪医科薬科大学事件の「賞与」、メトロコマース事件の「退職金」にしても、結果的にはどちらも不合理ではないとしましたが、判決では、不合理ということもありうるということをわざわざ言っています。日本郵便事件では、高裁で不合理ではないとした扶養手当がひっくり返って不合理となりました。

正社員のように「継続的な勤務が見込まれる労働者に対して扶養手当を支給するとすることは使用者の判断として尊重しうる」としながら、非正規社員でも相応に継続的な勤務が見込まれる場合は異なってくると判断しています。

一連の最高裁判決では、賃金項目ごとの事情を個別に判断して、ということを非常に強調していることが一番大きなポイントだったと思いますね。

――今後、同様の事案については、パ有法8条で同じような判断がされる可能性はあるのでしょうか。

パ有法14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)では、8条も含めて措置の内容について雇い入れ時の説明義務が課されたので、それも加味した形で検討されることになるでしょう。

その説明がなされていない場合は、8条との関係で待遇が適切でないと判断されることもありえますから、労契法旧20条における判断と違ってくると思います。

比較対象をどこにするかで判断が変わる

――諸手当が争点になった日本郵便事件ついて、どのようにご覧になったのか、さらにお聞かせください。

日本郵便事件では、正社員が3つのコースに分かれていました。平成25年度までの旧一般職と、新一般職、地域基幹職からなる正社員ですね。非正規従業員である期間雇用社員は、さらに5つに分かれていました。

区分が細かいんですよ。そうすると、どこに比較のターゲットを置くかによって判断がかなり変わってくるわけです。新一般職は、期間の定めなく雇用されていますが、窓口業務や郵便内務・外務など標準的な業務に従事し、管理業務を行うことは予定されていません。原告の非正規従業員である期間雇用社員も、外務や内務事務のうち特定の定型業務に従事し、管理業務に就くことは予定されていませんでした。

職務の内容にも異動の範囲にもあまり違いがない社員が比較対象とされたので、労契法20条の「職務の内容」「変更の範囲」の違いは小さいということになります。その他の事情についても、各手当の趣旨・目的に照らすと、これはあまり違いがないということで、不合理性が認められやすい。実態の前提としてです。

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