同一労働同一賃金、3つの最高裁判決が示すもの 日本の雇用システムにどう切り込んだのか

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しかし、判決をよく読むと、高裁では比較対象が正社員全体であって、一部ではないとはっきり言っていたのをひっくり返しています。正社員全体ではなく、「教室事務に従事する正職員」に限定しているんですよね。

今後の企業実務としては、人事側も正社員の類型を考え直さないと苦労することになるのではないでしょうか。類型ごとの違いをどうするか、非常に大変だと思います。

――人事制度上、正社員を厚遇する「有為人材確保論」について、今回、最高裁はそれに近いことを書いているようにみえますが、どう判断したのでしょうか。

今回は、言葉を少し変えていますね。大阪医科薬科大学事件の判決では、「賞与は、正職員としての職務を遂行できる人材を確保し、定着を図る目的で支給している」としています。

最高裁としては、具体化したつもりだと思います。正社員固有の求められる能力や知識・経験がある人材を求めるのであれば、これくらいの処遇があれば、それなりに励みになるということを言っているわけです。

賞与も退職金も諸外国では一般的でない

同様のことは、退職金についても確かに言いやすい内容ですよね。そもそも、賞与も退職金も諸外国では一般的ではありません。

私の専門であるドイツでは通常は両方ともないですね。賞与については、12回に分けて月例給与で支払えばいいし、退職金は年金があるからなくてもいいじゃないかと。であれば、なぜ日本ではあるのかと言えば、頑張ってねというメッセージなんです。賞与にしても退職金にしても、頑張れば、こういうご褒美があるということだと思います。

しかし、実際には正社員の平均勤続年数が3年半程度の会社もたくさんあるわけです。非正規社員のほうが定着度が高く、長期間勤続しているケースも少なくありません。仕事の内容は、定型業務が多く、経験を積めばうまくやっていくことができますから、非正規社員でも有為な人材ということになるでしょう。

スーパーのレジ打ち業務にしても、非正規のベテランの社員のほうが正社員よりも仕事ができますよね。顧客の対応にしても、よほどしっかりしていることは往々にしてあります。

こうしたことを会社側が不審に思っていないとすれば、長期勤続の人材自体に関心がないことになり、賞与や退職金が有為な人材確保のためという理屈は、全面的には成り立たないことになります。

最高裁判決も、人事の実態に応じた判断事例の適用場面では、必ずしも会社側に有利ということにはならないと思いますね。

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