同一労働同一賃金、3つの最高裁判決が示すもの 日本の雇用システムにどう切り込んだのか
しかし、日本郵便事件の大阪高裁では、年末年始勤務手当などで結果として勤続期間が5年を超えたら待遇差は不合理となりうるとしながら、5年以下であれば待遇差を認めるという工夫をしました。
大阪高裁がこうした考慮をしたにもかかわらず、最高裁は認めませんでしたね。これは大きな特徴かと思います。
――そうですね。最高裁は今回も、処遇差の割合については一切、認めなかったですね。そういう判断を避けているということなのでしょうか。
今のところ避けていると言えるでしょう。高裁レベルでは、判例としての影響はさほど大きくありません。
高裁は、大阪医科薬科大学事件では、賞与について正職員の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきとしましたし、メトロコマース事件では、退職金について正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1を支給しない場合は不合理という判断をしましたね。
いずれも、あれは実態を踏まえた個別の判断だと言ったところで、世間はそうは思いません。これが最高裁の判決となると、権威付けされてそこが独り歩きするんですね。
労使交渉で40%支払いましょうという話になったときに、最高裁は4分の1でいいと言っているじゃないかということにもなります。こういうことが慣例になってしまうわけです。
だから最高裁は、こうしたことには慎重です。現場で労使が話し合って決めてくださいということで介入しないんです。そもそも、最高裁も個別の事情を全部わかっているわけではないですし。
高裁レベルまでは、一種の大岡裁きのような感じで法廷判断として最終的にどうなるかは置いておいて、上告せずに納得してくれれば、こういう例もあるということで終わるんですよ。
正社員全体ではなく特定の類型で判断
――最高裁では、大阪医科薬科大学事件もメトロコマース事件も、比較対象とする正社員について、正社員全体ではなく、労働者側が求めていた特定の類型で判断していますね。
比較対象になるような働き方というのは正社員の全部ではないので、それがわかるときには特定して判断しましょうというメッセージでしょう。
比較の対象となる正社員は、基本的に非正規労働者側が選択できるものとする見解もありますが、最高裁はそこまでは言っていません。ただ、全体ではないというのは確かです。
大阪医科薬科大学事件では、裁判官5人全員が不合理でないと言っているため、とても冷たい印象があります。