秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる

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心理学者のジョシュア・ハートは、陰謀論に走りやすい人々に関する調査分析を行い、その性格的な因子を「スキゾタイピー」(統合失調症的な傾向)と呼んだ。「比較的信頼できない傾向があり、思想的に偏屈で、異常な知覚体験(実際には存在しない刺激を感じるなど)をしやすい特徴を持つ」と述べ、これは自分に特有のものだと感じたい欲求があると指摘した(Something’s going on here:Building a comprehensive profile of conspiracy thinkers/The Conversation)。

彼らは、「世界が危険な場所」であると捉えがちで、「あらゆる兆候」に差し迫った危機を見いだそうとするのである。このような被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がっていった可能性は高いだろう。

どんなマイナーな言説でも小さな市民権を得られる

ネットのコミュニティでは、どんなマイナーな言説であっても、小さな市民権が得られる。手っ取り早く不安を解消するには、同じ不安を持つ人々と連帯するのがいい。だが、世界が特定の何者かによってコントロールされているといった信念は、無力感や不毛さをすべて外部要因のせいにしてしまうペテンであり、国家や企業や少人数のグループでさえがそれぞれ別のロジックが働いていて、まったく予期せぬ結果をもたらすという複雑性を排除する〝おまじない〟となる。

要するに、新世界秩序(New World Order)とは、人類が救済されることへの願望を反転させた陰画(ネガ)のようなものなのだ。人生を揺るがすようなスペクタクルを激しく欲しているのである。

もちろん、別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある。

直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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