「日本株は1ドル=90円台突入で急落」は正しいか 「ドル安円高論」と日米企業の業績を検証する

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ただし、ドル安円高による収益圧迫を日本の輸出企業が全面的に回避できているわけではない。述べてきたような(短期的であるとはいえ)100円に迫るようなドル安円高が進むと、いったんは日本株が売られアメリカ株の動きに劣後する展開はありそうだ。

なお、現状はドル安円高にもかかわらず日経平均株価が堅調であるため、結果としてドルに換算した日経平均は上値を追っている。そこで「ドル建ての日経平均株価÷ニューヨークダウ工業株指数」の比率をみてみよう。

ここでは、ドル建て日経平均とNYダウはそのままでは桁が違っていて比率の数値が見にくいので、日経平均を100倍して表記することに注意していただきたい。つまり日経平均が2万6000円で1ドル=100円なら、日経平均は260ドルになるが、これを2万6000としてNYダウとの割り算を行なう。

企業収益改善の裏付けを欠く日本株

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さて、2012~2016年辺りでは、この数値はおおむね0.9倍前後で推移していた。これが、次第に日本株が割り負ける傾向が顕著となり、コロナ禍のなかで今年3月には0.7倍にまで達した。これがその後は切り返し、現状は0.85倍を回復している。

こうした日本株の巻き返しの背景には、新型コロナウイルスの感染者数、重症者数、死亡者数などが、絶対数でも人口比でもアメリカより日本のほうが抑制されている、という点はあるだろう。

しかしアメリカの調査会社ファクトセットが集計しているアナリストの企業収益予想値(向こう12カ月ベースの1株当たり利益)をみると、S&P500ベースでは2020年5月に前年比19.8%減益まで悲観的になったアナリストたちが、今は5.3%減益まで見通しを上方修正している。

これに対しTOPIX(東証株価指数)では、アメリカよりも遅いタイミングの7月に前年比27.4%減益と大きく見通しを悲観化したアナリストたちは、現時点でも18.0%減益までしか見通しを上方修正していない。つまり、為替込みの日本株のアメリカ株に比較した堅調さは、企業収益の改善という裏付けをかなり欠いている。

日米両国の株価共通に、11月に入ってからの上昇ピッチが急すぎたことや、足元の経済指標(11月のアメリカのISM指数や前述の小売売上高、同月の日本の景気ウォッチャー指数など)がいったん軟調さを見せ始めていることなどから、株価の短期下振れを懸念している。その下振れ度合いは、これまで述べてきたような背景要因からアメリカ株の下落率より日本株の下落率のほうが、大きくなるのではないだろうか。

ただし、これも従来と見解はまったく変わらないが、そうした短期の株価下振れがあっても主要国では長期的には株価は上昇基調をたどると予想している。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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