リンゴの皮むく鉄腕アトム 安川電機“ロボット社長”の夢
産業用への技術転用で民生用開発費を吸収
ほかにも、宅配便用ダンボールを折りたたんで倉庫にしまうロボット、贈答用のメロンと桐箱をつかんでふたをするロボットなどなどを研究中。さらに手術用ロボットにマッサージロボット……、利島の頭の中で構想が広がる。安川にはすでに年間200台の民生用の納入実績があるが、いずれも1社1台の試験納入。各社が100台ずつ購入すればざっと年2万台。あっという間に産業用に肩を並べる。民生用のほうが用途は広いため数十倍の潜在市場がある、というのが利島の見立てだ。
民生用ロボットはこれまで、企業イメージのPR用途が多く、実用化にどこまで本気なのか、疑わしい例が少なくなかった。最初は本気でも、なかなか市場が大きくならず、開発費ばかりがかかり、人材が育たないのが、共通する悩みの種だ。その点、安川は「産業用と並行だから投資を続けられる。民生用からのフィードバックも生かせる」(利島)と胸を張る。その好例が「スマートパル」シリーズ。イベント用として開発したが、コンパクトで工場にも適しているため産業用にも転用された。産業用への技術転用で、民生用の開発費は十分回収できる。
利島が夢見る民生用ロボットの究極の姿は、「リンゴの大きさに合わせてナイフで皮をむく鉄腕アトム」。故手塚治虫の代表作『鉄腕アトム』の主人公は人間社会に溶け込み、苦労しながらも最後は市民権を得る。利島は民生用ロボットにアトムを重ね合わせる。そんな利島を地元・北九州市民は「ロボット社長」と呼ぶ。ロボットのように黙々と働き続ける、ロボット好きの社長、という意味だ。
「本社にロボット村を2~3年以内に作りたい」。利島は真顔で言う。ロボットの勉強がしたい人を国内外から北九州市に集める。地元の子供にも開放し、将来のロボット研究者を育成するつもりだ。そのためもあって、利島は地元の産業振興会「にぎわいづくり懇話会」座長に就任。「ロボット村を観光振興にも役立てたい」と語る。すでに本社のある北九州市は、安川の働きかけで、公道でのロボットの実証実験が可能な「ロボット特区」に指定されている。「北九州市に本社を置くことで、外からの情報に振り回されずに研究に没頭できた」。情報過多の大都市よりも、地方都市のほうが技術開発型ベンチャーのインキュベーター(孵卵器)として最適。ロボット社長はそう信じて疑わない。=敬称略=
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