日本も巻き込まれる「医療用ゴム手袋」調達危機 マレーシアの世界最大手工場で大規模感染

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新型コロナワクチンの開発が進み、その接種や試験など向けに医療用ゴム手袋の需要はさらに増加することが見込まれ、一度使用されれば廃棄されるゴム手袋の需要は、今後さらにうなぎ登りとなることが予想されている。

その陰で外国人労働者が大規模クラスターに

しかし、空前の好景気に沸いていたかに見えたトップ・グローブに、暗雲が垂れ込めたのは先月のことだ。工場で働いている外国人労働者が居住する寮などで、新型コロナウイルスの大規模なクラスター(感染者集団)が発生。世界の医療現場などで使われるゴム手袋の製造現場という、その衛生環境が最も重視されるべき舞台で起きたクラスターは、トップ・グローブ社のみならず業界全体の威信を揺るがしかねない事態となった。

ロイター通信が報じたところによると、今月9日時点でトップ・グローブのマレーシア国内49カ所の工場において、実に5147人が感染していることが明らかとなっている。これは、現場の従業員全体の58%に上る人数で、いかに工場労働者の間で感染が急速に拡大したかが窺える。一時、トップ・グローブ従業員の感染者数は、マレーシア国内全体の新規感染者数の実に半数以上を占めることとなり、従業員寮には今月14日まで厳しい封鎖措置が取られ、工場の操業は停止されることとなった。

医療用ゴム手袋世界最大手の工場で働く外国人労働者らの間で感染が拡大。写真は、首都クアラルンプール近郊の外国人労働者が暮らす共同住宅まで医師らが、新型コロナウイルスの「出張検査」に出動している様子(写真はトップ・グローブとは別企業の外国人労働者、筆者撮影)

実は、マレーシアの製造業や農業、プランテーション産業は、南アジアなどからの労働者を低賃金で多く受け入れ成り立っている構図が存在する。医療用ゴム手袋世界最大手であるトップ・グローブも例に洩れず、ネパール、バングラデシュなどからの労働者らにより支えられてきた。

これらの外国人労働者が暮らす寮は、非常に狭い空間に複数人が共同で生活することが多く、衛生レベルも低く換気も悪い状態だとされ、これまで同様の寮などにおいて新型コロナウイルスの感染が発覚するケースが相次ぎ、マレーシア当局は厳しく査察を行ってきた。

トップ・グローブは今年7月にアメリカの税関・国境警備局から、一部の子会社製ゴム手袋の差し押さえ命令を受けている。これは、外国人労働者らの劣悪な労働環境が理由とされており、トップ・グローブ側は改善に取り組んできた経緯がある。

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