聡太が女性をリードできるのか、いささか心配だったが、恋愛初心者同士、手探りで関係を築いていくのもいいだろうと、私は思っていた。
しかし、そこから1カ月後に、鮎子から交際終了がきた。彼女の仲人は、電話口で残念そうに言った。
「別に聡太さんが嫌というのではなく、『結婚を現実のこととして捉えたときに、自分は人と一緒に生活していく自信がない。もう婚活はやめて退会します』と言うの」
それをそのまま聡太に告げた。
「そうですか」
聡太は聡太で、淡々としていた。
前に進むガソリンが、体の中にない
私は、「終わったものには執着せずに、“ハイ、次!”の精神で前に向かうことが婚活には大事ですよ」と励ましたのだが、そこから数日後、「面談をしたいです」と、聡太は連絡を入れてきた。
面談ルームにやってくると、言った。
「婚活だけではなく、仕事や生活やすべてにおいてなんですけど、自分を奮い立たせる力というのが、出てこないんですよ。車でいうとガソリンがない状態。走るための燃料がないから前に進めない」
なぜそんな状態に陥っているのか、私は尋ねた。
「今年は、コロナの蔓延で世の中の生活スタイルが、ガラリと変わったじゃない? 外出が制限されたり、会社がリモートワークになったり、そういう環境の変化が影響している?」
すると、聡太は言った。
「確かにそれも一因だと思うんですけど、これは、僕の元々の性格なんです。学生時代もやるべきことは淡々とできるんだけれど、それをもっと早くとか、もっと素晴らしくとか、そういう前向きなエネルギーが、僕には欠けていて」
そして、今の会社に転職したときのことを話し出した。
「前の会社にいたときに、周りからの要求がキツくて、キャパオーバーになってしまったことがあったんです。できない自分を追い込んでしまって、会社に行けなくなって、1年間休職したんですよ。そこから、このままでは自分が潰れてしまうと思ったので、今の会社に転職をしたんです。今は、自分のペースで仕事ができているし、会社の人たちとの人間関係もいいので、仕事への不満はなく働きやすいんですけどね」
さらに婚活については、こんなことを言った。
「結婚はしたいんですよ。ただ、婚活をしていくガソリンが、そもそも僕は人よりも少ない。このまま続けていて、大丈夫なのかなって。ただやめてしまったら、会社を休職したときのように、自分を責めてしまうような気もするし」
負のループに巻き込まれているようだった。
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