「強い人間と自称する人」に熱狂する人々の愚純 ポピュリズムを生み出す下地がつくられる背景

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コロナ禍において政府の経済的な損害に伴う補償が遅々として進まず、感染拡大防止についても検査体制の不備などが際立つ中で、相対的に東京都や大阪府の対応が「まし」なものに映っただけというのが真相でした。しかし、(東京都と大阪府の)両知事はこれをポピュリズムを発揮する好機とみて大いに活用したのです。

いちいち引用はしませんが、一般紙の多くは吉村知事の「独自」の政策を、半ば安倍政権や厚生労働省などの官僚批判の材料に使い、その妥当性を吟味することなく持ち上げる記事を書いていました。果ては「記者団の質問に毎日応じている」「SNSで自ら発信している」「意思決定が素早い」「次の首相は吉村知事か」云々かんぬん……これは報道機関としてあまりにも劣悪でした。

決定的だったのは、そんな吉村知事の健闘ぶりを称え、励まそうとしてネットユーザーが作ったTwitterのハッシュタグ「#吉村寝ろ」がトレンド入りしたことです。

吉村知事は、この呼びかけにすかさず「ちゃんと寝てます。しんどいのは府民、国民の皆様の方です」とツイートしました。そして「橋下さんの言葉を借りれば、政治家は使い捨てでいいんです。この先、さらに厳しい状況になるかもしれませんが、国難を一致団結して乗り越えましょう」などとへりくだってみせるのでした。

強力なエンゲージメントを作り出した

ソーシャルメディアがアテンション・エコノミー(関心経済)における最有力のツールと化す世界において、「#吉村寝ろ」は、政治家とネットユーザーの間に非常に強力な「エンゲージメント」(結びつき)を作り出したことを表しています。「ポスト・トゥルース時代」の政治家と民衆の感情的な結束を生じせしめた好例といえそうです。

事実、産経新聞が5月9~10日にTwitterに投稿された「知事」などの用語を含むツイート約2万2000件を解析したところ、3割が吉村知事に関する投稿、67%が好意的な内容となり、群を抜いてネットユーザーから注視されていたことがわかりました。

なお、ポスト・トゥルースとは、「客観的な事実などよりも、感情に訴えかける虚偽の情報が影響力を持つ」状況を指していますが、かつて大阪維新の会が大阪市立環境科学研究所(環科研)と大阪府立公衆衛生研究所(公衛研)を統合・独立行政法人化したことによって、コロナ禍への対応に支障を来した可能性(【新型コロナ】大阪市の保健所は僅か1カ所 住民の健康は身近な行政でこそ守られる(大阪府保険医協会/2020年3月5日))などよりも、一見「やってる感」のあるトップダウンによる強力なリーダーシップに惹き付けられるのです。これもポスト・トゥルース的な作法の結果といえそうです。

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