「強い人間と自称する人」に熱狂する人々の愚純 ポピュリズムを生み出す下地がつくられる背景

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人気YouTuberとのコラボを成功させた小池百合子・東京都知事にもこれが当てはまります。

「密です」――4月9日に内閣府で報道陣に対して小池知事が行った発言が、ネット上で急速にミームとして増殖し始めました。小池知事が密集する報道陣に向けて距離を空けることを求めて「密です」と連呼する様子が、ソーシャルメディアで話題になり、動画やイラスト、果てはゲーム(空飛ぶ都知事が密集団を解散させる「密です3D」)にまで進化しました。9日といえば、都内で新たに180人以上が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、その時点では過去最多という極めて緊迫した状況でした。しかも、発熱が4日以上続きコロナが疑われる人が保健所に電話してもまったくつながらない悪夢が現出していました。

たとえば、5月13日に20代の若さで亡くなった大相撲・三段目の力士、勝武士さんは4月9日、容体が悪化したため、別の大学病院へ転院しました。4月4日に38度台の発熱があり、師匠らが保健所に電話をかけ続けたがつながらず、その後複数の病院に断られ、8日に熱が下がらず血痰が出たので救急車を呼んだといいます。

それでも受け入れ先の病院はなかなか決まらなかったのです(勝武士、高熱も保健所につながらず 区長「調査に協力」/朝日新聞デジタル/2020年5月14日)。公にはなっていませんでしたが、ほぼ同じ日に、ICU(集中治療室)で人工呼吸器を装着していたのは女優の岡江久美子さんでした(5月23日に肺炎により都内の病院で亡くなった後に所属事務所が経緯を公表)。これらは都内で相次いだ悲劇の一端に過ぎません。

ソーシャルメディアはポピュリズムの心強い味方に

このように、東京オリンピック・パラリンピック開催などに固執して初期対応が遅れ、政府や自治体の失策による被害が水面下で着実に拡大していたにもかかわらず、ポスト・トゥルース的な感覚が優越するアテンション・エコノミー(関心経済)は、ポピュリズムを支援し助長する役目に徹してしまうのです。

「#吉村寝ろ」も「密です」も、ネットユーザーが自発的にやり始めたというところに事の重大性があります。PCR検査を極力受けさせまいとする保健所の無慈悲な対応よりも、可愛いと評判の「百合子マスク」から発せられる「いのちを守る STAY HOME週間」という空疎なスローガンが響いたのです。ポストコロナ、ウィズコロナ時代において、ますますソーシャルメディアという文明の利器は、ポピュリズムの心強い味方となっているのです。

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