強制収用へ一転、静岡知事が翻弄「沼津駅高架」 貨物駅不要論から10年、リニア問題と似た構図

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それから4年ほどして、知事は「貨物駅不要論」を取り下げて、県議会で高架事業の推進を明言した。低環境負荷の大量輸送手段であり、阪神・淡路大震災、東日本大震災でトラック輸送に頼った脆弱性が明らかになり、貨物ターミナルの整備がいかに重要かを理解したことで知事は方針を転換したようだ。

2014年9月県議会で川勝知事は事業推進を表明、ようやく振り出しに戻った。そこから再スタートとなったが、用地確保は困難を極めた。昨年9月、県、市は土地収用法に基づく手続きに入った。今年4月、県収用委員会の未買収用地の権利取得と明け渡しを求める裁決が下り、市は未買収用地7件の地権者9人に補償金を支払い、所有権を取得した。ただ、土地にある立木、墓、農作物などの物件所有権の明け渡しを元地権者に求めていたが、元地権者1人が明け渡しに応じないと表明した。

川勝知事は10月27日、「強制収用はできる限り避けなくてはならないが、強制というより、法律に基づいたものなので仕方ない。強制収用しなければらちが明かない立場もありうる」などと述べ、「絶対に強制収用は行わない」とした立場から一変していた。この結果、県と市は11月10日、代執行庁(県知事)に強制収用の請求を行った。

知事発言で事業が4年間ストップ

このあと、勧告書、戒告書の送付手続きなどを経て、川勝知事がいつ強制収用を実施して、物件を撤去するかに焦点が移った。

11月10日、沼津駅高架事業で強制収用の手続きに入ったことを明らかにした川勝平太静岡県知事(筆者撮影)

12月24日に静岡地裁で、元地権者らが国、県を相手取った鉄道高架事業の事業認定無効確認訴訟の判決が言い渡されるが、知事は粛々と手続きを進めていくだけだろう。

知事の横やりで事業が10年近く遅れたと嘆く沼津市民らは多い。市関係者は「沼津市民も県知事として川勝さんを選んだ責任は大きい」とあきらめの心境だ。

特に、知事の「貨物駅不要論」に翻弄された栗原元市長は「4年間は知事の貨物駅不要論で事業は完全にストップした。知事に沼津市のこれまでの取り組みや貨物駅の必要性を何度も説明したが、まったく聞く耳を持たなかった。ただの巧言令色である。政治家として責任を取ることはなかった」と批判した。

「貨物駅不要論」当時の川勝発言を振り返ると、リニア静岡問題と構図はよく似ている。沼津の鉄道高架事業もリニア静岡問題も知事発言に翻弄されているのだ。新貨物ターミナルの完成までに長い時間がかかりそうだ。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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