あまりの事態に真矢さんは別の結婚相談所の門をたたき、自分のプロフィールを見てもらった。答えは「あなたは勘違い系」の一言。結婚相談所で人気なのはふんわりとした雰囲気の清楚系美人であり、個性的な容姿と雰囲気が前面に出ている真矢さんは異質なのだという。
「はっきり言われて胸にグサッと来ましたが、そのとおりだなと思いました」
得意のネットで“クリック営業”婚活を開始
その頃から真矢さんは得意のネットでの婚活に特化し始める。直接会うとコミュニケーションがちょっとぎこちない真矢さんだが、メールなどの文面は丁寧かつ饒舌で、知性と優しさを感じさせられる。実際、30代後半からの2年間で3人の男性と交際することができた。その1人が俊之さんである。
「マッチングアプリで閲覧履歴を残しておく作戦をよくやっていました。男性のプロフィールを読むと履歴が残る仕組みなので、『自分に興味があるのかな』と思った人が連絡をくれることがあるからです。私はこの作戦を全国の男性を対象に展開していました。今日は東海地方を攻めよう、などと決めて同年代の男性のプロフィールをクリックしまくるのです。クリック営業、と私は呼んでいました」
釣りで言うと、まき餌のような作戦である。このエピソードからしても真矢さんはネット婚活向きであることがわかるだろう。
クリック営業作戦で連絡をくれた俊之さんとは共通点もあった。ロードバイクだ。真矢さんは抜け目なくロードバイク愛を語りつつ、「中古のクロスバイクを買いに行くついでに桜を観に行く予定」を伝えた。俊之さんが「じゃあ、僕も一緒に行きます」と言いやすくなる環境を作ったのだ。
「会う前に、私は彼の希望である30代前半ではないことを確認しました。希望と合致していなくて申し訳ない、と。『大丈夫です。話ができることが大事ですから』との返事をもらいました」
共通の趣味の話で盛り上げておいて、実際に会う際にはハードルを下げる。高度かつ誠実な手法だと思う。俊之さんのほうも5年間も婚活を続けていて3人にしか会えていない、という切実な事情があった。
「高校を卒業してから自動車関連の工場で働いている人です。正社員ですが年収は低めで、見た目もあか抜けないしコミュニケーションも得意ではありません。アプリには向いていないタイプです」
やや厳しめに俊之さんの客観的評価を下す真矢さん。ただし、実際に会ってみたところ、俊之さんは自家用車で真矢さんの自転車を運んでくれる親切な人だった。
「食事はファミレスで割り勘でした。彼はあまり話すタイプでもありません。でも、ハワイの自転車イベントに興味を示してくれたし、一緒にいて違和感がありませんでした」
違和感がないという表現は、晩婚さんからよく聞くフレーズだ。ポジティブでないように響くが、結婚生活にはとても大切な要素だと筆者は思う。ドキドキハラハラするような恋愛感情は日常生活には不要である。ただし、人間関係や金銭感覚などの基本的な部分で違和感があったら、どんなに好みの異性とでも家族になることは難しい。
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