保育園が突如閉園、広がる保護者の困惑と不安 閉園の2週間前に通知、市の通知にも応じず

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厚生労働省の調査によると、小規模保育園の数は2016年の2429施設から、2018年には4267施設に急増している。4267施設のうち、企業立の割合が48%を占め、通常の認可保育園の割合が7%であるのと比べると、はるかに高い。

「保育園の運営は人件費と設備費が想像以上にかかる。国が定める職員の配置基準が低いため、実際には倍くらいの人手が必要だ。それを知らずに安易に開園すると、運営を見誤ることになる」(逆井氏)

にこにこルーム原山は、定員9人に対して、2019年は7人、閉園時は3人の園児が在籍していた。保育士は「朝7時から19時まで開園しているため、(保育士のうちの)誰か体調不良で休めば長時間勤務を強いられることになる。会社に訴えても、園児を入れたら職員を増やすと言われるだけだった」と訴える。

あいまいな公的責任

今回の閉園について、印西市保育課の担当者は「これまでも職員配置について改善を指導してきたが、改善されなかった。11月から休園状態になったが、市として休園を承認していないことは変わりないため、不承認での休園は児童福祉法に違反する」としている。

市は同園への認可を取り消す方向で検討している。しかし、児童福祉法違反に対する運営会社へのペナルティはない。

これに対し、運営会社の社長は「パート職員で十分に配置基準を満たしている。園児が少ないと委託費が少ないため、採算が合わない。これでは人件費を増やせない。卵が先か鶏が先かという話だ。市から安全面で指導を受けていたが、改善できなかった。子どもの安全が第一なので、そういう(市の)評価なら、潔く(運営を)やめるしかない」と話す。

民間の小規模保育園に対する公的責任はあいまいだ。通常の認可保育園は自治体が保護者から保育料を徴収し、入園する園児の調整も行う。小規模保育園も入園は自治体の調整によって決まることが多い。ただし、この調整は情報提供や紹介の域を出ないので拘束力はない。保育料も園が保護者から徴収する。

「小規模保育園については、行政は施設の入所もそこで提供される保育も、自治体は直接的な責任を負わない。公的責任において格差を是正するには、認可保育園と同じ扱いにすべきだ」(前出の逆井氏)

市によると、在籍していた園児の転園先が決まったため、廃園に向けて手続きが進んでいるという。結果的に短期間での閉園が認められる形となった。

待機児童の受け皿として増加する民間の小規模保育園だが、突然の閉園で何ら罪のない子どもたちが最もシワ寄せを受けている。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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