もともとうまくいっていた民宿だったが、マサヲさんが若旦那になることでますますうまくいった。まさに順風満帆だった。
しかしそんな折に、新型コロナ禍が訪れてしまった。
「3月の連休までは普通でしたが、4~6月はどの宿も99%減でした。民宿丸慶は完全に閉じたので、100%減ですね。
完全に宿を閉じることができたのは、借金がなかったおかげです」
宿を閉じると時間だけはたくさんできた。
ただ、将来のことを考えるとドンドン不安になっていった。今は借金がないけれど、こんな状況が続けば、いつか借金をせざるをえなくなってしまうかもしれない。
「なんとかお宿以外で収入を得る方法はないか? と考えました。例えば畑の野菜を通販で売るとか、そういうことです」
マサヲさんは、以前からずっと樹海をテーマにしたYouTubeを配信していた。
これは収入を目的としたものではなく、ただただ本当の樹海を知ってもらいたいと思っての活動だった。
YouTubeで収入を得ることを考えた
「今までは考えたことはなかったんですが、YouTubeでも収入を得ることはできるんじゃないか? とも考えました」
しかし自粛期間が過ぎ、コロナ禍も少し落ち着きを見せた。7月には
「フロントにアクリル板を敷く」
「トイレや洗面台を、部屋ごとに完全に分ける」
など徹底したコロナ対策をしたうえで営業再開に踏み切った。すると想定よりたくさんのお客さんが足を運んでくれた。そして予約もたくさん入った。
ホッと胸を撫で下ろしている間もなく、8月に第2波がやってきた。せっかく入った予約は一気にキャンセルされてしまった。
心のイライラを抑えられなくなってしまったのだろう、在宅で仕事をしている妻とケンカになり、彼女は実家に帰ってしまった。
そして、同時期にマサヲさんは実の弟とも仲違いしてしまった。民宿丸慶の仕事を手伝ってもらう約束をしていたのだが、弟は別の場所に移り住んでしまった。
「今までの人生の中でいちばんの絶望でした。僕は家族を大事にしてるはずだったのに、2人も失ってしまいました。目の前が真っ暗になってしまいました」
マサヲさんはそんな絶望的な日々の中、YouTubeでライブ配信をすることに決めた。
『ぼっち樹海心霊凸…100日後に○ぬサヲ』
と題し、毎日深夜に樹海に入り。100日連続で配信をするという内容だった。
『100日後に○ぬサヲ』はツイッターで大ブレイクした『100日後に死ぬワニ』のオマージュであることは明確であり、つまりかなり不吉なタイトルだ。
小学生時代、樹海での自殺者に怒りを感じていたマサヲさんらしからぬテーマである。
「そのときは普通の精神状態じゃなかったですね。狂ってしまっていたと思います。アーカイブを見ると、ヤバいなって思います。地元の人間でも、漆黒の樹海の中を歩くのは怖いんですよ。自暴自棄になって、自分を痛めつけるような行為をしたかったんだと思います」
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