「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中、決定的なエッセンスを見極める
こう議論してくると、アメリカ大統領選挙は重要ではないという結論に至りやすいが、注意すべき政治的な材料もあるので、最後にそれを確認したい。それは今後明らかになる財務長官の人事だ。大統領交代のタイミングで財務長官人事に注目するのは普通の事だが、今回はとりわけ注目度が高い。
事前報道ではラエル・ブレイナードFRB理事もしくはバイデン候補と民主党大統領候補を争ったエリザベス・ウォーレン上院議員の名前が挙げられており、どちらが就任しても女性初の財務長官となる。リベラル色を主張したい民主党としては格好の人事であり、金融市場の外でも注目を集めるだろう。だが、結論から言えば、どちらの候補も日本にとってはあまり嬉しくない未来が予見される。
ドル安志向の強さで知られるブレイナード氏
まず、ブレイナード理事は多くの市場参加者が認識するとおり、現在のFOMC(連邦公開市場委員会)ではカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁と並んでハト派筆頭格である。そうした志向と整合的に、同理事は前職の米財務次官(国際担当)時代はドル安志向が強い人物としても耳目を集めてきた過去がある。
例えば、アベノミクスの下で円安・ドル高が最も勢いづいていた2013年1月、ブレイナード財務次官(当時)は「ゲームのルールが今後も守られると信じる」と言明し、ドル売り・円買いを招いた。また、為替市場では2014年6月以降、長らくドル高が続いてきたが、こうした動きがアメリカ経済にもたらす引き締め効果についてブレイナード理事が講演で残した有名なフレーズがある。
2016年9月12日、『The "New Normal" and What It Means for Monetary Policy』と題した講演でブレイナード理事は「FRB/USモデルの推計に従えば、2014年6月から今年(2016年)1月までのドル相場上昇はアメリカの経済活動にとって、おおむねフェデラルファンド(FF)金利にして200ベーシスポイントの利上げに相当した」と述べた。講演時点の話だが、「ここまでのドル高は利上げ8回分(25ベーシスポイント<=0.25%ポイント>×8)に相当する」と述べ、ドル高に対する警戒感を露わにしたのである。
今年7月以降は明確にドル安が進んでいるのでこの手の発言を警戒すべきではないとも言えるが、当該講演が言及された2016年1月と比較すれば名目・実質実効ベースのいずれにしても今のドル相場のほうが高いのだ。インフレ率も振るわない現状も踏まえれば、遠慮なくドル安に関心を示してくるかもしれない。
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