伊藤忠が経営理念を「三方よし」に変えた意味 ステークホルダーへの責任をどう考えるべきか

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発表されたビジネス・ラウンドテーブルの声明には「どのステークホルダーも不可欠の存在である。私たちは会社、コミュニティー、国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する」とある。

この一文の意味するところは、これまでの株主一辺倒の株主第一主義、株主資本主義から脱却し、株主以外のステークホルダー(顧客、社員とその家族、社会、取引先等)に対しても、相応に責任を果たすことを企業のミッションとするということである。

企業は株主のものという価値観から大きく一歩踏み出した格好だ。株主主義からステークホルダー主義へと大きく舵を切ったといえよう。

アメリカの株主資本主義の潮流に流されて、多くの日本企業が日本的経営から離れていったが、株主資本主義の本家であるアメリカの企業家から、脱株主資本主義の宣言がなされるというのは皮肉なことである。

私利と公益性のバランス

ビジネス・ラウンドテーブルのコミットメントには、「第一に顧客に対し価値を提供するというアメリカの伝統をさらに発展させる。第二に従業員に公正な報酬の提供と重要な福利厚生を提供し、教育・訓練を支援する。第三に取引先(サプライヤー)と公正で倫理的な取引を行う。第四に地域社会を支援し、環境を保護する。第五に長期的な価値を創造し、株主との効果的な関係を築く」──とある。

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私はこのコミットメントを目にしたとき、私が8年間にわたり日本法人の社長を務めたジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド「我が信条」を見る思いがした。

こうしたビジネス・ラウンドテーブルの「企業統治に関する原則」の変化には、社会的な背景が大きい。アメリカといえども、株主主義だけで押し切れる時代ではなくなったということだ。企業がビジネスをしている以上、顧客の総和である社会からにらまれては生きていけない。私企業だからという理由でわがままが許されるほど、社会は緩やかではなくなってきたのである。

企業が自らの利益を守るためにも、積極的に公益性を示す必要があるのだ。

新 将命 国際ビジネスブレイン代表取締役社長

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あたらし まさみ / Masami Atarashi

1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6社で活躍し社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、いまもさまざまな会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら、長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組む。

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