伊藤忠が経営理念を「三方よし」に変えた意味 ステークホルダーへの責任をどう考えるべきか
私は、真のCSRは“Corporate Social Responsibility”(企業の社会的責任)ではなく“Corporate Stakeholder Responsibility”と考え、ことあるごとにそう主張もしている。CSRとは企業の社会的責任だけではなく、「企業の全ステークホルダーへの責任」であるべきだと思う。
ステークホルダーとは、いうまでもなく企業の利害関係者、具体的には顧客、社員、社員の家族、社会、取引先、株主、銀行等である。企業の社会的責任だけを取り出し、声高に主張することにも意義はあるし、そうせざるをえなかった背景もあるのだろう。
だが、売り手よし、買い手よし、世間よしを分断して考えてはいけないように、企業のステークホルダーへの責任も、社会だけを切り離してはいけないのだ。そういう点でも三方よしは、正しいCSR(企業のステークホルダーへの責任)を短く言い切った見事な哲学であるといえる。
理念で社会の公器であることを宣言する
ステークホルダーを意識しない経営理念はありえない。経営理念は多くの人が共感し、社会から尊敬を受けるもののほうが、理念としてより大きな力を発揮する。社会から共感と尊敬を得るには、私企業の経営理念といえども公共性を意識したものでなければならない。理由は至極簡単で、株式会社は“Public Company”(公共の会社)だからだ。たとえ自分が大株主だったとしても、「自分だけ」という考え方は120%間違っている。
理念は経営者の志、哲学を言葉や形にしたものだが、それが個人の満足、一企業の成功だけに終始していたのでは、理念のもつ力を発揮するには不十分である。
企業は何のために存在するのか、われわれは何をもって社会の発展や人々の幸福に貢献するのか。自社の成長と社員の成長が、社会の発展とリンケージしていることは、経営理念をよりパワフルなものにするために必須の条件である。
「自分の会社だから、どうしようと自分の勝手、人さまにとやかくいわれる筋合いはない」と開き直ってしまっては、社会の公器として機能する道は閉ざされ、理念も力を発揮できずに終わってしまう。
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