平井ソニーが挑む「最後の構造改革」の本気度 2015年度営業利益4000億円は達成できるか

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たしかに今のソニーにとって、損益計算書を安定的な黒字に持ち込むことは重要だ。しかし、筆者が注目したのは平井社長が就任以来、一貫して主張してきたエレクトロニクス事業復活への取り組みにブレがなかった点である。

平井氏は好調とは言えない決算の場であっても、「製品を販売する会社なのだから、ひとりでも多くの人に欲しいと思ってもらえる魅力ある製品の開発にリスクを負って投資すべきだ」と繰り返し主張してきた。

収支面ではズタボロになっていたテレビ事業、退潮著しかったパソコン事業において、製品力強化とコスト削減を並行して進める時間的な猶予を与えたのも、収支を整えるだけではなく製品そのものが持つ力で利益を生み出せる会社へと変えられると考えていたからだろう。

平井社長は、今年1月に米ラスベガスで行われたコンシューマエレクトロニクスショウ(CES)のグループインタビューで、「収益源である製品を強化するには投資が必要であり、そのためにはリスクを負わねばならない」と語っていた。この姿勢は今回の経営方針説明会でも変わっていない。苦しい中でもヒットを生み出すべく前向きに取り組んでいた製品開発陣は、安心しただろう。

新事業創出にも挑戦

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目標通りに費用削減をできるか

具体的な投資強化対象として挙げられたのは、イメージセンサー、バッテリーといったキーデバイス。エレクトロニクスでは低消費電力技術、ソフトウェア技術では音声・映像認識やナチュラルユーザーインターフェイス、デジタル信号処理といった技術を挙げた。これらの技術により、「ライフスペースUX」と呼んで推進しているリビングルーム体験改善への取り組みや、ウェアラブル機器の開発を進めようというのだ。

さらに、これまで「社長預かり」として直轄部門で開発させてきた、市場性が評価しにくい新事業創出を狙った製品開発プロジェクトについても説明した。新しい挑戦を推進、サポートする専門組織を立ち上げ、社外のアイディアを取り込みつつ推進していくという。

厳しい環境であっても、常に新しい価値創造に挑まなければ、会社はいずれ朽ちていく。「イノベーションの促進と新規事業の創出に取り組む」と決意を語る平井氏は、社長就任から2年余りが経過した。今度こそは、やり切れるか。その「成果」が厳しく問われることになる。

(撮影:尾形文繁)

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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