レヴォーグ1強に見た和製ワゴンの残念な衰退 盤石の人気を誇るが電動化の後れは気になる

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ステーションワゴンとして盤石の人気を保持するレヴォーグだが、気になる点もある。それは、電動化がなされなかったことだ。スバルには、e-BOXERと呼ぶハイブリッドシステムがあり、インプレッサやSUVのフォレスターに搭載されている。しかし、新型レヴォーグには採用されなかった。

搭載された新開発の水平対向4気筒ターボエンジンは、環境性能を高めたが、燃費の向上はわずかでしかない。燃費性能や環境性能が求められる今、なぜハイブリッド車がないのか?

その理由として、「ツーリングワゴンの顧客が長距離を走り切れることを重視する」という考え方がある。付け加えてレヴォーグが国内専用車であることも要因だ。電動車両の導入や二酸化炭素排出量規制(燃費規制ともいえる)に罰則がない日本では、電動化に向けた強制力が働かない。

発表会で開発責任者は「新型レヴォーグで九州まで旅をしたい」と期待を述べた。これは顧客の長距離移動への期待を自らも体験しようという思いがあるのだろう。

新型レヴォーグ発表会で語る、開発責任者の五島プロジェクトゼレラルマネージャー(写真:SUBARU)

しかし、ガソリン満タンで1000kmに及ぶ道程を一気に運転し続ける人がどれほどいるだろうか? また、安全運転という視点から長距離移動では、途中で休憩をはさむことが推奨される。その間に給油もできるし、電気自動車(EV)であれば充電の時間があるはずだ。

しかも排ガスゼロを目指し、気候変動を抑制する取り組みは、規制や罰金の有無に関係なく、世界共通の目標であるはずだ。永年ツーリングワゴンを愛するスバリストが、実は環境破壊者の一員であるとしたら、世間の冷たい視線を受けることになりかねない。ここにスバルの次世代へ向けた企業姿勢の一貫性に欠ける、足元の利益追求の姿が浮かび上がる。

「より遠くまで、より早く、より快適に、より安全に」というグランド・ツーリング思想は、EVを採用することで低重心化の余地が生まれ、より綿密な4輪駆動制御も可能になるはずだ。適切な休憩をはさみながら充電して移動すれば、現在のエンジン車以上の本質的価値を生み出せる。そこが見えないスバルは、いずれ熱烈なファンを失いブランド力を落としかねないと心配している。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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