楢葉町、町長を悩ませる「帰還判断」 松本町長が語る、原発事故後ゼロからの町づくり

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――24項目の考慮すべき要件の中には「原子力発電所の安全対策」が入っている。福島第一原発では汚染水の漏洩などトラブルが絶えない。そうした中で、どのように判断するのか。

帰町判断の表現の仕方は申し上げられないが、第一原発の問題が2日に1回のごとき割合で出てくる中では非常に難しい。工事に例えた場合、竣工時期が明示されていれば目標時期を打ち出しやすいが、第一原発がどこで落ち着くか見極めがつかない。

町としては打つべき手を打っている

――帰町を妨げる問題として、住宅の荒廃がある。特にねずみの被害がひどい。

ねずみ被害は町内の世帯の約7割で発生している。実際に見てみると本当にひどいありさまだ。掃除やハウスクリーニングをすれば住めるじゃないかとの指摘もあろうが、実際に見てみると考えは変わるはずだ。家屋の荒廃のひどさについては国もぜひきちんと見ていただきたい。

――住宅地の放射線量は除染の効果もあり、大きく下がっている。しかしながら、国が長期的な目標としている年間の追加被曝線量1ミリシーベルトの達成には至っていない。

基本的には国が示すように、1ミリシーベルト以下になるようにすべきだ。しかし、実態としては、避難指示区域外でも楢葉町よりも高いところはある。比較するわけではないが、そうした点も踏まえて検討すべき。除染検証委員会の報告書も「楢葉町全体で見た場合、帰還して居住することは可能と考えられる」と述べている。非常に判断が難しいが、こうした知見も参考にさせていただく。

――町長は、政府の原子力損害賠償紛争審査会の能見善久会長(学習院大学教授)を大学に訪ね、精神的損害賠償を帰還後1年で打ち切ることを認めた中間指針第4次追補の見直しを求めている。

会長にお話をしたというだけで、審査会の中でどう判断するかは別の話だ。とはいえ、町としては打つべき手をきちんと打っている。審査会のほうでヒアリングに来いというならば、東京まで出かけていきたい。楢葉町の現状もぜひ見ていただきたい。

――審査会は、移住や建て替えのために新たに住宅を取得する際に多くかかる必要の一部を「住宅確保損害」として賠償の対象とすることを中間指針に盛り込んだ。これについては、市街地のほぼ全域が帰還困難区域に指定された大熊町や双葉町の町民には認められる方向だ。その一方で、避難指示解除準備区域である楢葉町の場合、すべての住民に認められるわけでもないのでは?

子どもの教育や介護しなければならない高齢者を抱えている家庭の中には、戻りたくても戻れない方も少なくない。戻りたい方と、戻れない方とも、生活再建の道を確保するように国に求めている。避難指示を解除したのに住民の生活が成り立たないというのでは、解除する意味がない

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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