日本の生命保険の信用力と動向 ~業界の見通しをネガティブから安定的に変更《ムーディーズの業界分析》
VP−シニア・アナリスト 三輪昌彦
株式市場下落による資本毀損リスクを主因として、ムーディーズは、2009年1月より日本の生命保険業界の見通しをネガティブとしてきた。しかし、国内主要生保において、国内株式エクスポージャーを削減する動きがあり、株式市場下落に伴う資本毀損リスクが低下したことや、保険事業環境が引き続き安定していることを受けて、10年2月に業界の見通しを安定的に変更した。
株式エクスポージャーの低下
09年3月期は、日経平均株価が1982年以来の最安値をつけるなど、資産運用関連リスクが顕在化した。このようなストレスケースに実際直面したこともあり、国内主要生保での株式エクスポージャーの削減が進んだ。国内主要生保における国内株式等保有額は、帳簿価額ベースで08年3月時点では約15兆円あったが、09年9月までに約13兆円まで減少している。
各社の状況を見ると、三井生命やT&D保険グループは、国内株式等保有額を4割程度削減している(一部減損が含まれる)。株式市場の回復を待つことなく、あるいは回復に賭けることなく、リスク性資産を売却して早めに資本毀損リスクを削減するという決断をしたといえる。第一生命や富国生命においては、国内株式等保有額が2割程度減少している(一部減損が含まれる)。資本基盤が比較的強固な明治安田生命や日本生命、もともと一般勘定に占める株式の割合が比較的低い住友生命については、帳簿価額ベースでの国内株式等保有額の減少は1割を下回る程度であり、ほとんどが減損によるものである。
また今後、株式市場が金融危機前の水準まで回復し、一定程度の売却益が見込める局面においては、業界全体において、さらなる保有株式削減の動きが進む可能性もある。これは、規制資本の議論において、経済価値ベースのソルベンシー評価への移行が検討されており、これによって資産ポートフォリオにおける債券投資比率の上昇、株式投資比率の低下が促されるためである。