こうしてゼンショーは危機を乗り越えてきた ゼンショー・小川社長が語る経営哲学(3)
――リーマンショックのときは?
リーマンショックの危機は2つ。一つはPL上。もう一つはバランスシートでしょう。PL上で言えば、売り上げが全業態にわたって、ガッと落ちた。市場にはこんな言い方はできないけれども、トヨタが赤字になるような大波が来て、これはしょうがねえじゃないかと。だけど、どこでこの波を食い止めるのかということが経営の課題であってね。前年比が15%落ちたとか、それはある意味ではしようがないと。
何をグループに対して一番アナウンスしたかというと、入客数をひたすら確保しろと。つまり、お客様が去年9月に100名来ていたと。だったら、この100名を今年も来ていただけるようにと。ついては各業態がどうすべきなのというのが、COO(最高執行責任者)の主要な仕事。
価格の問題がまな板に載ると、メディアは価格ばっかりになるんだけれども、それは本末転倒。価格競争とか、下げるとか言うんだけれども、何のために下げるのかという経営としての目的。普通で言えば下の策。粗利が減るから。
だけど、リーマンショックのとき、僕がグループトップに対して「入客数志向でいこう」と言ったのは、これはその中には価格戦略もあるよと。だけど、多くのメディアがまず低価格ありきとか、値下げありきと。しかし、入客数の確保と。そのための方法の一つとしては価格変更もある。ほかにもいろいろ努力方法はある。やってきているんだけれども、結果として入客数の確保を第一テーマにと。
何でかというと、このリーマンショック的なショックは津波であって、また第二波が来るかもしれないけれども、そのうちなくなる。5年で考えればね。そのとき、5年で考えたら何がいちばん大事かというと、あの津波が来たときもすき家に来てくれるお客様、あの津波が来たときもココスに来てくれるお客様が一番の財産。まず値下げありきだとか、プロモーションだとかじゃなくて、このお客様を大事にしたい。もっと言うと減らしたくない。一時的に利益は下がるけれども、長期的に見れば一番いい、やるべきだと。
という政策でやってきて、確かに数字でいくと減益で、胃が痛くなるような減益だったわけです。2008年3月期に142億円だった経常利益が半分以下になった。このときに2009年3月期はトヨタ自動車が赤字になった。最低限、ゼンショーグループのCEO(最高経営責任者)としては、ここは経常黒字は死守したいと。だけど、142億円が一定程度減るのはしようがないと。
ちょっと予定より下がったんだけれども、62億円の黒字で踏ん張って、翌期は大体倍くらい。まだここではリカバリーできてない。111億円。そして、またそれをリカバリーして最高益を今期やると。こういうV字回復途上にあるわけです。大体思ったように進んでいるわけです。
――バランスシートのほうは?
バランスシートについて言えば、言っちゃ悪いけれども、日本の銀行さんはみんなで渡ればという体質があるから非常に危険だと。融資についてはストップしたわけです。そういう意味でも、ここの黒字とか、キャッシュフローに直結しますから、これは踏ん張って赤字にはしないと。
でも、基本的にここで成功した。だから、大波を受けてもこのくらいは出せるのかという見方をしてくれて、シンジケートローンをやってくれたわけです。三井住友が主幹事。
新しい業態を成功させるのは結構大変
――リーマンショックのちょっと前にスシローとかっぱ、これを両方ともパクって一緒にしようと。
パクると言わないで(笑)。
――それを考えられましたよね。その後、リーマンショックが来て、これは小川さんとして本当に苦しまれたんじゃないですか。どうしようと。彼らも抵抗すると。
両方事情が違っていて、かっぱについてはオーナーの徳山さんが売りたいということで、これは某銀行ルートでどうですかという打診があった。われわれも回転寿司は推奨できると考えていたし、それから、はま寿司という回転寿司を独自に立ち上げて、当時、10店後半ぐらいやっていたんですよ。まだ規模は小さかったですけど、非常に順調にはま寿司が推移していったので。新しい業態を立ち上げて成功させるのは結構大変なんですよね。