静岡リニア、県が黙認する東電「ダム取水」の謎 ダムから大井川の放流増量で解決するはずだが

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二軒小屋発電所の最大使用水量は毎秒11立方メートルであり、河川の「維持流量」(動植物などの保護等総合的に考慮して、渇水時に維持すべきと定められた流量)を上回った水量を発電用に使うことができる。西俣川の維持流量は同0.12立方メートル、東俣川は同0.11立方メートルと少ないから、2つの堰堤からの取水量は非常に多くなる。

右側が中電の二軒小屋発電所。左側は西俣川、この上流で取水している(筆者撮影)

同発電所が稼働した当時、生物多様性保全の姿勢は希薄で、1997年に環境アセスメント法が施行されたが、生物環境を巡る調査等は行われていない。通常、この程度の流量しかないとすれば、そこに生息する水生昆虫や魚類は最低限の生活環境しか与えられない。

そんな水量減少の中、リニアトンネル工事によって、水枯れなどが懸念されるから、源流部のヤマトイワナ絶滅は避けられないという議論になってしまう。

2018年12月19日付静岡経済新聞は、国が二軒小屋発電所の水利権更新を認める際、静岡県の意見を聞く手続きを指摘、維持流量を大幅に増やすなどを提案する「ヤマトイワナを守れ」の記事を掲載した。リニア議論の最中であり、難波喬司副知事にもその取り組みを要請した。

ところが、県は何の対応も取らず、2019年4月、25年前の同発電所稼働時とまったく同じ条件で更新された。「南アルプスを守れ、ヤマトイワナを守れ」は単なる口先だけのようだ。

ヤマトイワナでも県は現実的解決策を封印

発電所ダムの影響、釣り人、漁協関係者らによって源流部で減少したヤマトイワナを、リニアトンネルを建設するJR東海に是が非でも守れ、ではあまりに荷が重い。それほど、ヤマトイワナが重要であるならば、もっと以前から静岡県が対策を取るべきだった。

中流域には、本州唯一つの大井川源流部原生自然環境保全地域が光岳のふもとに広がり、その地域は、釣り人はじめ、すべてが立入禁止で、もちろんヤマトイワナが生息する。また天竜川はじめ別の地域でもヤマトイワナは生息している。

専門部会委員の一人は、ヤマトイワナ絶滅の恐れを指摘、トンネル工事後に他の地域のヤマトイワナ移転放流などの代償措置を取るよう提案していたが、やはり、この現実的な解決策もいまのところ封印されている。

JR東海が地域貢献で地元の理解を得ようとする姿勢を示さないことから、知事は国論を巻き起こそうとしているのかもしれない。しかし、“命の水”を守ることはJR東海に求めるだけでなく、本来、県がやるべき重要な使命でもある。

知事の菅首相批判は、国の有識者会議の生物多様性を話し合う委員選定の質問で飛び出した。委員の資質にかかわらず、最終的な解決には政治力が必要となるのだが…。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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